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建設現場で働きノーギャラでライブ 影山ヒロノブの売れるまでの苦節

建設現場で働きノーギャラでライブ 影山ヒロノブの売れるまでの苦節

アニメソングの歴史において、影山ヒロノブの登場は革命的だった。影山は80年代からヒーローアニメや特撮の主題歌を中心にアニソン歌手活動を開始し、ハードロックに影響された力強い歌声でアニソンを新たなステージに押し上げた。彼がステージでアニソンを歌えば、まるでロック・コンサートのようにファンが泣きながら笑い、拳を突き上げる。影山はアニソンとロックの垣根を取っ払ったパイオニアなのだ。

しかし、スター然とした風貌に似合わず、影山のキャリアは苦難に満ちていた。たとえば、最大の代表曲「CHA-LAHEAD-CHA-LA」ですら、建設現場のバイト終わりに仮歌を聴いてすぐレコーディングしたのだという。自伝『ゴールをぶっ壊せ―夢の向こう側までたどり着く技術』(中央公論新社)では、「アニソン界の大スター」が辿ってきた険しい道のりが語られていく。影山の人生には、常人の精神力では耐えられないようなエピソードも混じっている。だからこそ、現在の影山が紡ぐ言葉にはアニソンファン以外にも響く説得力がある。

1961年、影山は大阪に生まれた。中学生になる頃にはすっかり音楽の虜となり、友人たちとハードロックバンド「LAZY」を結成。高校在学中にデビューが決まり、晴れてバンドメンバーたちと東京へやって来た。

ところが、レコード会社から命じられたのはまさかのアイドル歌謡路線だった。3枚目シングル「赤頭巾ちゃん御用心」のヒットでLAZYの人気は爆発するが、ライブでは演奏そっちのけで振り付けばかりをスタッフに強要されるなど、メンバーたちのストレスはたまっていく。結局、バンドは1981年に解散し、メンバーたちはLOUDNESSやNEVERLANDといった音楽性の高いバンドを新たに結成していく。影山もソロシンガーに転向し、第2のキャリアを歩み出した。

ソロ初期こそLAZY時代の女性ファンが支えてくれたものの、徐々にライブの動員は減っていく。やがて、生活のために建設現場で働きながら、ノーギャラでライブをこなす日々が始まる。移動も宿泊もボロボロのハイエースの中で、歌手としての最低年収は7万円。「あいつは終わった」「元LAZYの中では一番みじめ」などと、容赦ない言葉が影山の耳にも届くようになった。

そんな影山の転機になったのが1985年、『電撃戦隊チェンジマン』主題歌のオファーだ。歌手名が「KAGE」名義になっているのは、ハードロック歌手としてのキャリアを邪魔しないため。そのときはまだ、影山にアニソン歌手転向の意志はなかったという。しかし、唯一無二のパワフルな歌唱は業界で高い支持を得て、影山には次々とアニソンのオファーが舞い込むようになる。アニソン界の大先輩、堀江美都子のアドバイスにしたがって自身のライブでもアニソンを歌い始めると、男性ファンの開拓にも成功した。影山はようやく音楽界の第一線に返り咲く。以後、JAMProject結成や海外でのライブなどを経て、今ではアリーナクラスの会場を埋められるほどの人気を集めるまでに上りつめた。本書の後半では、トップランナーである影山が考えるアニソン産業の未来や、アニソン歌手を目指す若者への金言がちりばめられていて必読だ。

それにしても、どうして影山は逆境の中でも音楽をあきらめずにいられたのか?そして、数々の目標を達成した今でもなお、大御所の座に甘んじずエネルギッシュに活動していけるのか?その理由も本書には綴られている。

壊して、壊して、その先まで走っていかなくては、大きくなれない。現状維持のままで終わってしまいます。夢のさらにその向こうにきっとある、輝く未来まで到達することなど決してできない。
少なくとも俺はそう思って「ゴール」らしきものを蹴散らしながら、ここまで走ってきました。

そう、そもそも影山はゴールなど設定しなかったからこそ、自分の限界も決めつけずに生きてこられたのだ。還暦に手が届く年齢になっても、影山が見据えるのは未来だけ。影山にとってアニソンの定義は「キャラクターの応援歌」だというが、熱く生きる自身の姿と歌声こそが、今日も誰かの「応援歌」になっているのは間違いないだろう。

文=石塚就一

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