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TBS「クレイジージャーニー」複数の人間による約2年半の不正

TBS「クレイジージャーニー」複数の人間による約2年半の不正
立て続けに発覚した「やらせ」問題にTBSが揺れています(撮影:今井康一)

9月11日午後から現在まで、TBSのホームページに異様な表示が見られます。左側に設けた「新着情報」の欄に並んでいるのは、「『クレイジージャーニー』からのご報告とお詫び」「『消えた天才』からのご報告とお詫び」という2つのトピックス。つまり、放送内容における謝罪文なのですが、最上部に据え置かれていることや、すべての文字を太字にしていることが、事の重大さを物語っています。

それぞれの文章を見ていくと、まず「『クレイジージャーニー』からのご報告とお詫び」は、8月14日の2時間スペシャルと、同日深夜のレギュラー枠で放送された、「爬虫類ハンターの加藤英明さんがメキシコの珍しい生物を捕獲する」という企画に言及。「爬虫類ハンターの加藤さんに同行取材させてもらう」という趣旨であるにもかかわらず、スタッフが現地の取材協力者に依頼して、6種類中4種類の珍しい生物を準備していたことを明かしたのです。

さらに謝罪文では、事前に準備した4種類の生物と撮影時の状況を説明。

1.メキシコサラマンダー現地協力者が湖で事前に捕獲した個体をネットの籠に入れ、同じ湖に放ちました。

2.アリゲータートカゲ地面に数センチの穴を掘って、事前に捕獲した個体を放ちました。

3.メキシコドクトカゲ現地協力者が個体を岩の下に放ちました。

4.ヘルメットイグアナ取材した大学にお借りし、大学施設内の生息可能性のある場所に放ちました。

取材先の大学から借りてまで撮影していたこと以上に驚かされたのは、このロケが7月2日から5日までのわずか4日間で行われていたこと。

謝罪文には、「番組スタッフは、狙った生物を捜索しても発見できない場合を想定して、あらかじめ狙った生物を準備しておこうと考え、現地の協力者に依頼していました」と書かれていました。しかし、「本当に4日間で6種類もの珍生物を捕獲できるの?」と視聴者から疑われるであろう内容を最初から思い描いていたところに、感覚のマヒを感じてしまいます。

複数の人間による約2年半の不正

実際TBSは、過去に放送された爬虫類ハンター企画を調査したところ、「過去10回の放送で捕獲した生物のうち、26種類は捜索中に実際に発見し捕獲したものですが、11種類は事前に準備していたものであること」が新たに発覚。

約2年半前から継続して不正を行っていたうえに、「過去10回の放送分は全て、今回のメキシコロケを担当した番組スタッフとは別のスタッフが担当していました」と個人ではなく、複数のロケ担当者の間で行われていたことが明らかになりました。

2017年2月9日マダガスカル前半
・ヘサキリクガメ

2017年2月16日マダガスカル後半
・ラボードカメレオン

2017年8月16日カメルーン(ゴールデンSP)
・ゴライアスガエル・ニシアフリカコビトワニ

2018年8月8日キューバ(ゴールデンSP/同日レギュラー枠)
・ヒメボア・キューバボア・フトヒゲカメレオンモドキ

2019年2月6日南アフリカ前半
・アフリカウシガエル・タマゴヘビ・パフアダー

2019年2月13日南アフリカ後半
・ノドジロオオトカゲ

謝罪文は、「今回の事態を私どもは重く受け止め、当番組は調査が完了するまで休止します。番組を御覧いただいている視聴者の皆様に重ねてお詫び申し上げます」と締めくくられていました。

しかし、不正が複数の人間によって、2年半以上にわたって行われていた以上、疑惑の目は爬虫類ハンター企画だけでなく、他の人気企画にも向けられてしまうでしょう。他の冒険家、ジャーナリスト、写真家、各種専門家などの顔にも泥を塗ってしまったことは、当番組に限らずTBSにとって痛恨といえる事態なのです。

「クレイジージャーニー」は、2015年1月2日に放送された特番時代から、他の旅番組では見られない映像を武器に、熱狂的なファンを獲得し続けてきました。また、2016年5月に「ギャラクシー賞月間賞」、2018年6月に「放送文化基金賞番組部門・テレビエンターテインメント番組最優秀賞」の受賞歴を持つ名番組ですが、放送再開は絶望的な状況でしょう。

アスリートのプライドを傷つけた罪深さ

一方、「『消えた天才』からのご報告とお詫び」の謝罪文では、8月11日の放送で、「リトルリーグ全国大会で全打者三振の完全試合を達成した当時12歳の少年の試合映像を放送した際、映像を早回しすることで実際の投球よりもストレートの球速が速く見える加工を行っていたこと」を公表。全31球中7球で、投球の映像を2割程度速くしていたことが明らかになりました。

さらに、「クレイジージャーニー」と同様に、過去の放送においても調査を行ったところ、下記の3件が発覚したのです。

1.2018年1月3日放送

インターハイ卓球女子シングルスで優勝した女性が現役引退後、29歳になった時に卓球をする映像のスピードを実際よりも2割程度速くしていました。

2.2018年1月3日放送

地方のフィギュアスケート大会で優勝した当時小学生の男子の映像について、スピンのスピードを実際よりも2割程度速くしていました。

3.2018年11月4日放送

元Jリーガーの男性が小学生時代に出場した試合について、ドリブル突破を図る映像のスピードを2割程度速くしていました。

謝罪文は、「私どもは今回の事案を重く受け止め、調査が完了するまで『消えた天才』の放送を休止いたします。取材に協力してくださったご本人及び関係者の方々、そして番組をご覧いただいた視聴者の皆様に重ねて深くお詫びいたします」という言葉で締めくくられていました。

しかし、「クレイジージャーニー」が冒険家や専門家たちの顔に泥を塗ったのと同じように、「消えた天才」もアスリートのプライドを傷つけるような行為をしてしまったことは逃れようのない事実。放送休止や謝罪文では、アスリートと視聴者の信頼を取り戻すことは難しいだけに、再開は難しいのではないでしょうか。

厳しい制作条件に疲弊する撮影現場

なぜこのような不正が常習的に行われてしまったのでしょうか。

現在ネット上で最も目立つのは、「珍しい生物なら『捕まえられなかった』というだけで、やらせなんてしなくてもいいのに」「うそがない番組だから面白い番組だったのに」という声。「クレイジージャーニー」も「消えた天才」も、リアルなドキュメントタッチの番組だから人気を集めていたのに、その根幹を揺るがす行為が残念でならないのでしょう。

視聴者は「そのまま見せてくれればいいし、失敗しても面白い」と思っているのに、制作サイドが「もっと面白くしよう。失敗はありえない」とやりすぎてしまったという図式は、昨年11月に報じられた「世界の果てまでイッテQ!」の祭り企画と同じ。奇しくも、「消えた天才」と「世界の果てまでイッテQ!」は同じ時間帯に放送されていますが、局を超えて同じ不正を行ってしまったところに、テレビ業界の闇を感じざるをえません。

しかし、「上司からの具体的な指示で不正に至ったか」と言えば、その可能性は低いでしょう。私は日ごろさまざまな番組を取材していますが、その際プロデューサーから「現場のスタッフはディレクター以下、本当に頑張ってくれています」、現場のディレクターから「一生懸命やっていますが、いっぱいいっぱいです」という声を聞くことがよくあります。これは美談ではなく、期日や予算などの条件が厳しいことの表れであり、不正を行ってしまう根っこの部分にほかなりません。

事実として、「厳しい条件の中で、過去の放送と同等以上の映像を作らなければいけない」というプレッシャーを抱えている現場スタッフの姿をしばしば目にしますし、彼らも上司から評価を下される会社員。プレッシャーから逃れ、評価を得るために、「これだけ厳しい条件なのだから、これくらいのことは大丈夫だろう」「最終的に視聴者に喜んでもらえるものになれば大丈夫だろう」という発想が生まれるのでしょう。

その「このくらいは大丈夫だろう」、さらに「ほかの人もやっているから」という利己的な感覚こそが問題であり、彼らの上司がそれを不正と知りながら「撲滅しよう」と自ら動いていないことも闇の深さを物語っています。

「できた」シーンを絶対視しない

では、今回のような不正を繰り返さないために、どんな対策が必要なのでしょうか?

その答えは、主に以下の2つ。

1つ目の対策は、「できなかった」ことをドキュメンタリーとしてリアルな映像と見なして通常通り放送すること。とくにリアリティーで人気を集めている番組であれば、「できなかった」シーンを見せることで視聴者にその難しさが伝わるとともに、のちに「できた」シーンの価値も上がるでしょう。

また、撮影前に行われる会議の段階から、「できた」シーンのイメージのみで仕事を進めてしまいがちなのも問題点の1つであり、改善すべきポイント。「『できなかった』シーンのリアリティーをどう伝えるか、どう面白くしていくか」は、「できた」シーン以上に考えていくべきでしょう。そもそも、いわゆる“撮れ高”は、会議の段階でイメージした「できた」シーンだけではないはずであり、それを絶対視するから不正を行ってしまうのです。

2つ目の対策は、内容に対するハードルが上がり、ネタに苦しみはじめたら、潔く企画そのものを終わらせて、次の企画を考える(最低でもリニューアルをする)こと。「高視聴率だから」「ファンが多いから」という理由だけで続けていくと、制作サイドの苦しみは回を追うごとに増すだけであり、今回のような不正につながりかねません。

また、この2つと同等以上に重要なのは、プロデューサーやアシスタントプロデューサーらが、日ごろから制作現場の声に耳を傾け、問題発生の兆しに気づくよう心がけること。撮れ高や視聴率などの結果を最優先させていたら風通しのいい組織にはならず、今後もコソコソと不正に手を染めてしまう人が現れるでしょう。

TBSに求められる性悪説での管理

最後に再び謝罪文の内容に触れると、「クレイジージャーニー」の不正については、「事実に依拠した番組で事実を歪めたことになり、あってはならないもの」。「消えた天才」の不正については、「アスリートの凄さを実際の映像で表現するという番組の根幹をなす部分を加工することは、番組としては絶対にあってはならない手法」と書かれていました。

TBSは外部からの指摘を受けて内部調査を進めたようですが、「あってはならないもの」が続けて起こった以上、「対応が甘く、遅い」と言われても仕方がないでしょう。

今回のような不正は民放各局に起こりうるものではありますが、世間の人々から疑惑の目を向けられている以上、信頼に基づく性善説だけでは不十分。今こそ、「人の本性は悪であり、それが善になるのは人間の意思で努力するからである」という性悪説に基づいた管理面での努力が求められているのです。

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