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論破王として有名なひろゆきさん（西村博之氏）を夫に持つ西村ゆかさんが、2月22日に新刊『転んで起きて』を上梓した。X（旧Twitter）などで垣間見えるユーモアのセンス、小気味よい語り口、そして独自の視点にはファンも多いが、本書ではゆかさんが今まであまり語ってこなかった、自らの生い立ちについても触れられている。FRaUwebでは3回にわたり、作品から一部修正・抜粋し、記事にしてお届けする。

人生最大の謎

ときどき、当時の母が置かれていた状況に思いを馳せることがある。流行の最先端だった東京から、保守的な考え方の地方に嫁ぎ、そこの習慣になじめず、ずいぶん嫌な思いをしたようだ。朝から晩まで家族の世話に追われる毎日。食事もお風呂も、嫁はなんでも後回し。親戚が持ってきたお土産のお菓子を、母だけがもらえないこともよくあったそうだ。

初めての育児で、ただでさえ不安だったろうに、夫はギャンブルに夢中で留守がち。もし私がそんな環境にいたら、1秒だって耐えられなかっただろうなと想像する。それにしても、母はなぜ、そんな父の元に嫁ぐことを選んだのだろう。いったい、父のどこが良かったのだろう。

私が高校２年生のとき、経済的に困窮して母とは暮らせなくなった。それで、１年半ほど父のお世話になった。父と一緒に暮らした経験をふまえても、たしかに人好きのする面もあるが、なぜ結婚相手に選んでしまったのかは、大いに疑問が残る。

「物事の分別がついたら結婚なんてできない」と樹木希林さんがいつだったか話しているのをネット記事で見たが、そういうことか？父は、私の人生において、不動のキングオブクズなのである。母が選んだのが父ではなかったら、母は違う人生を歩めたのだろうか。母は、いまから10年ほど前にがんで亡くなった。

父の元から逃げ出した母は、私を選んだはずだった。けれど、そこまでして守りたかったはずの私との関係を、母はなぜかみずから壊してしまった。なぜなら母は、離婚してすぐに、ギャンブルに手を出したからだ。そしてギャンブル依存症になって、家族にめちゃめちゃ迷惑をかけた。

この本を書くために初めて、なぜ母が、自分を苦しめた父と同じことをしたのか考えてみた。冷静に考えると「よりによって、なぜあいつと同じギャンブルなんだ？」という疑問が湧いてきたからだ。

でも、母が生きていたとき、私はなぜかその疑問を母にぶつけたことがなかった。死んでしまった母にはもう聞けないし、自分でいろいろと理由を想像してみることにした。

最初はたぶん、シングルマザーとして抱えるストレスがあって、友達に誘われたりしたんだろうか。「ちょっとした気晴らし」くらいの気持ちではじめたんだろうか。けれど「なぜギャンブルだったのか」ということは、いくら考えてもやっぱりわからなかった。そして、ひとつの結論に至った。

要するに、父と母は似たもの夫婦だったのだと思う。いろいろ考えたけれど、導き出された答えは結局その１行にすぎなかった。

母はよく無邪気に私に言った。「あなたがママを選んだのよ」そう言われるたびに、勘弁してくれよと思っていた。選べないから困っているんじゃないか。自分で選べるのなら、おそらくもう少しマトモな人を選んでいたはずだ。

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