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実家は100年続く美濃焼の窯元

「僕が知る兄貴と、ほかの方が語る兄貴はちょっと違いますね」

こう話すのは、田中邦衛さんの実弟である田中駿平さんだ。

3月24日、田中邦衛さんが老衰で亡くなって3年が経つ。アクの強い風貌の脇役として活躍後、「北の国から」で子どもたちの成長を見守る父親を演じ国民的人気を集めた田中さん。

同ドラマで演じた黒板五郎役のイメージがあまりにも強く、不器用で頑固、口下手な人という印象を抱いている人も多いが、実像は少しばかり違ったという。

身内だからこそ知る田中さんの「意外な過去」と「知られざる素顔」を聞いた。

田中さんは1932年、岐阜県土岐津町（現・土岐市）で100年以上続く美濃焼の窯元の家に生まれた。

「兄・邦衛は次男坊。7人きょうだいの四番目です。邦衛といって思い浮かぶのは、ヤンチャだった姿。我が家では一番、父親に怒られていました。近所でもとびきりのガキ大将で、不良というか、まぁ中学時代からタバコを吸うようなタイプでした（笑）」

根っからの下積み体質

父親の意向もあり、中学卒業後は地元を離れ、道徳教育を重んじる全寮制の高校に進んだ。

「旧制の多治見中学を経て、千葉にある全寮制の麗澤高校に入学しました。在学中に何度か不始末をしでかしたようで、父親が学校から呼び出しを受けていました」

高校を卒業すると、系列の麗澤短期大学に進んだ。演劇との出合いは、この頃であった。

「私が兄と同じように麗澤高校に入学した1953年、兄は短大の2年生でした。その年の秋の文化祭で、短大2年生による英語劇公演がありましたが、そのときに兄の俳優人生の原点を見たような気がします。

公演の題目はマクベス。私が会場の多目的ホールに出向くと、役者たちがリハーサルをしているステージ裏で、兄が裏方として黙々と一人で小道具の準備に取り組んでいたのです。

振り返ると、ヤンチャ坊主だった一方で、野球に打ち込んでいた中学時代は野球部の硬球を家に持ち帰り、きれいに磨いていました。下積みの仕事をいとわない性格は俳優としてのベースになっていると思います」

生徒からの質問攻めに思わず涙

田中さんは短大在学中に俳優座養成所の入所試験を受けたが、二度続けて不合格。失意の中、故郷に戻り家業を手伝うことを決めたが、ひょんなことから代用教員として10カ月ほど新制中学の教壇に立つことになり、1年生の担任を務めた。

「資格なしの代用教員です。きっかけは、小学校時代の校長先生から声をかけられたこと。もっとも、兄はヤンチャでしたからね。なぜ校長先生が兄に声をかけたのか不思議でした。

当時はまだ旧制の時代であり、田舎では中学に進む子供は少なかった。それがちょうど地元に帰ってきたので、声をかけてくださったのでしょう。

もっとも、本人も話していましたが、なんの準備もなく、ぶっつけの教員でした。当然、授業は散々だったようです。短大は英語科でしたが、最初の授業で黒板に『Lesson』と書いたつもりが、sが足りず、生徒に『先生、sがひとつ足りません』と指摘されてしまったそうです」

教師時代の田中さんは、英単語の意味について生徒から質問攻めにされ思わず涙を浮かべることもあったという。

「英語のほか、国語と体育も教えていたとのことですが、一番得意なのは体育でしょうね（笑）。

当時、私は実家を出ていましたが、帰省すると、テストの答案用紙のマルつけを手伝わされたものです。調子がよく、いい加減なところもありましたが、憎めない人柄で子どもたちからの人気は抜群だったようです」

家族の反対を押し切り、役者の道へ

親しみやすい先生として子どもから慕われていたが、わずか1年弱で教員をやめることになった。きっかけは俳優座合格だ。学校に勤務する中、三度目の正直で、俳優座に合格。22歳だった。

「田舎では河原乞食なんて言われた時代であり、『せっかくの安定した仕事を捨てるのか』と家族は大反対でした。ただ、本人の意志は固かったですね。

1年間に満たない教員生活でしたが、教え子との交流はその後も続き、郷里に帰ったときは会っていました。当時の教え子が磯子の自宅に遊びに来たこともあるそうです。人に好かれるのは天性のものだと思います」

続く後編記事『秘蔵写真を公開…実弟が明かす田中邦衛の「知られざる実像」と「晩年の姿」』では、実弟の駿平さんが田中さんの「知られざる実像」を告白。また晩年の姿など秘蔵写真も公開しています。

秘蔵写真を公開…実弟が明かす田中邦衛の「知られざる実像」と「晩年の姿」

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