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「撮影直前まで暴行」元女優・若林志穂さんが直面した「悪しき芸能界」

「撮影直前まで暴行」元女優・若林志穂さんが直面した「悪しき芸能界」

現在は、趣味の映画やドラマ鑑賞を楽しみながら、平穏な暮らしを送っている若林さん(写真・福田ヨシツグ)

令和の芸能界を揺るがす、数多の性加害事件。だが、声をあげることすらはばかられる時代に、人知れず被害に苦しんできた女優がいる――。

「最終的に監禁されて、レイプされて、暴力振るわれて……」

2023年11月、X(旧Twitter)のライブ配信で突如、ある大物ミュージシャン・X氏から1998年に性被害を受けたと告白したのは、元女優の若林志穂さんだ。

「若林さんは、1984年に映画『生徒諸君!』でデビュー、1988年には『新まんがなるほど物語』(TBS系)のお姉さん役として出演、1991年からはホームドラマシリーズ『天までとどけ』(TBS系)の長女役で一躍、人気になりました。2009年に芸能界を引退した若林さんですが、2023年9月に、Xのアカウントを開設。性被害の“告発”は、2024年1月にネット上で話題になり、複数のメディアが取り上げる事態となりました」(芸能記者)

なぜ約26年前の“被害”を語りだしたのか。本誌が取材を申し込むと「変な切り取り方をしないこと」を条件に、若林さんは取材を承諾した――。

「こんな格好ですみませんね」

そう語る彼女の片手には杖が握られていた。脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)を患い、外出する際には杖が必要なのだという。

「でも、私はこの病気が原因で引退したわけではありません。芸能生活のなかで、多くの性被害を受けたことで発症した複雑性PTSDが理由です」(若林さん・以下同)

性被害の遠因には、若林さんの複雑な生い立ちが影響していると、彼女は語る。

「そもそも、私の家庭環境はあまりいいものではありませんでした。父は外面はいいのに、家ではいつも母を怒鳴り、ものを投げつけ、奴隷のように扱っていました。後年、精神科で相談したところ、父は自己愛性パーソナリティ障害ではないかと言われましたね。あるとき、私が2階で寝ていると、1階から激しい物音がしたので、あわてて姉と見に行きました。すると、父が母の髪の毛をつかんで引きずり回し、炊飯器で殴りつけているところを目撃してしまいました。そういう父の影響で、私のなかでは男=怖い人という認識になってしまい、どんなときでも男性に対し、『怒らせたら殴られる』と考えてしまうようになりました」

そんな環境のなかで、母親は次第にアルコール依存症に。学校で友達もつくれなかったという彼女は、新聞で見つけた映画『生徒諸君!』の出演者オーディションに応募して芸能界に入った。だが、彼女を待ち受けていたのは、いまならすぐに事件化するような、“悪しき芸能界”だった。

気がつくとベッドの上で馬乗りに

「いまも現役で活躍されている、時代劇が得意な大御所俳優さんは、あいさつ代わりにお尻をさわるのが当たり前でした。一時期、所属していた芸能事務所の社長も、しつこく言い寄ってきました。

恐ろしかったのは、1990年代前半にVシネマで大人気だった俳優Yさんです。いつも睡眠薬を飲んでいるそうで、ある撮影所でお会いした際『よく眠れてる?眠れないならおすすめの薬があるよ』と声をかけられました。一度断わったのに、その後、私の泊まっているホテルの部屋にまで突然やってきて『これ飲みなよ』と、Yさんから白い錠剤を渡されたんです。断わりきれずに缶チューハイとともに飲むと、意識を失いました。気がつけば、ベッドの上でYさんが馬乗りになっていて……。

同時期には、宴席の帰り道に泥酔したある俳優さんに『ホテルに行こう』と誘われ、服をたくし上げられ下着のなかに手を入れられたこともありました。なんとか取り成して逃げることができましたが、当時の芸能界は、こんなことが日常茶飯事でした。右も左もわからない新人で、父のことが原因で男性が怖い――。そんな私は、うまく逃げ切ることができなかったんです」

どれも苦しい記憶なのは間違いないが、決定的に若林さんの心に深い傷を与えたのは、X氏からの暴行だった。

「1990年代に映画のオファーをいただいて顔合わせした際、Xさんから電話番号を聞かれたんです。すごく嫌でしたが『いいじゃん、いいじゃん』と押し切られて……。後日、彼から電話で『セリフ合わせをしよう』としつこく誘われました。私は断われる立場でもなく、当時、私が住んでいた世田谷区太子堂のマンションにXさんが来ることになったんです。裏口から私のマンションに入ってくるとき、彼が『まるで刑務所みたいだな』と言ったのをいまでも覚えています」

部屋に入ってきたX氏の様子に、若林さんは恐怖を抱いたという。

「Xさんはエアコンの赤いランプを指して『あれ、盗聴器だぞ』と話すなど、尋常ではない様子で、私はXさんのことが怖くて仕方なかったんです。しばらくすると、Xさんは高圧的な態度で、その場の床の上で四つん這いになるよう指示してきました。私は従うしかなくて……。でも、彼は途中で勃たなくなったんです。すると、あそこの根元に輪ゴムをぐるぐるに巻いて、奇声を発しながら自分のあそこをバーン、バーンと引っぱたきだしたんです。『この人は異常だ!』と思って、もう怖くて怖くて……。いまでも思い出しただけで、吐き気がします」

さらにX氏は、若林さんに不思議な指示を出してきた。

「Xさんは私に目隠しをして、ライターを手渡すと『これをアソコに突っ込んで、ひとりでしてろ』と命じてきました。仕方なくそれっぽくフリをしましたが、目隠しを少しずらして見てみたら、Xさんはその間、私の部屋の引き出しを物色していたのです」

後日、若林さんは当時、所属していた事務所関係者に相談したが、冷たくあしらわれたという。そして翌年、若林さんはX氏との映画の出演シーンを撮影するため、ある地方を訪れた。このロケでも、若林さんはまたX氏から暴力を受けた。

「Xさんか監督のどちらかが、私の女性マネージャーを気に入っていたようで、その女性に現場に来てほしかったみたいなんです。それを私が事務所関係者に伝えたことが、気に入らなかったようです。Xさんが泊まっていたホテルの部屋に呼び出されて『なんで俺のメンツを潰すんだ』と、撮影直前まで暴行を受けました。ものを投げられ、水の入ったペットボトルで叩いてくるんです。私はメイクの時間が迫っていたので、彼に許可をもらって、泣き腫らした真っ赤な目でメイク室に行きました」

本誌は当時、この映画で撮影スタッフを務めていた男性に話を聞いた。

「当時、X氏の感情のアップダウンが異様に激しかったのは事実です。また、アクションシーンで本当に相手の俳優さんを殴って怪我をさせるなど、暴力的なところもありました。私は若林さんが告発するXのポストを読みましたが、事実である可能性は十分あると思います」

当時、芸能界で受けた性被害は、母にしか相談できなかったという若林さん。“大切な作品”のために気持ちを押し殺していた。

「警察に行くなり、もっと事務所に相談すればよかったという声もあると思います。でも、私には『天までとどけ』があった。被害を告発することで、ドラマに迷惑をかけたくない、視聴者のイメージを壊したくないという思いから、我慢してしまいました」

ケダモノを出すためゴミ箱を抱えて…

一連の出来事のなかで、X氏の機嫌を損ねることがあった若林さん。するとX氏から、「お前なんか芸能界にいられないようにボコボコにして、海に沈めてやる。俺のまわりにはそういうことができるやつがいる」と脅されたという。この“脅し”は、その後の若林さんの人生に、つねにつきまとうことになる。彼女が自身の体の異変を感じだしたのは、悪夢の地方ロケのひと月後からだ。

「近所のコンビニで、お菓子や、レンジでチンして食べるドリアやグラタンを買い込んで、自宅でゴミ箱を抱えながら食べては吐く、というのを繰り返すようになってしまって……。ケダモノが私のなかに入ってきた感じがして、出したくて出したくて、しょうがないんです。吐いたからって、食べものが出ていくだけで、ケダモノが出ていくわけじゃないんですけど……。お酒も止まらなくなりました」

次第に精神をむしばまれていった若林さん。1999年には、ヘアヌード写真集を自ら製作し、性被害の記憶を自己表現することで、克服しようとした。しかし結局、2009年に芸能界を引退。つねに「殺される」という強迫観念に悩まされてきたことが原因だった。

精神的に限界に達した若林さんは、2011年に父の判断で強制的に入院。その病院で、複雑性PTSD、アルコール依存症、双極性障害との診断を受けた。

とくにX氏との件は法テラスに相談したほか、警察にも2017年、2020年、2021年と3回、相談に行っている。

「証拠がないし、古すぎるということで、罪に問うのは難しいようです。実際、Xさんはその後も何事もなかったように活動していますからね……」

芸能界は私のような被害者を出さないで

入院や通院の日々を経た現在、若林さんは生活保護を受給し、穏やかに暮らしている。

「精神的に少し落ち着いてきたと思えたので、2023年の9月にXを始めたんです。往年のファンの方に、『私は元気でやっています』ということと、自分の言葉で、私の身に起きたことを伝えたいと思ったんです」

若林さんが受けてきた性被害は、どれも20年以上前に起きた事件だ。しかし、芸能界における性加害に注目が集まる昨今、若林さんが苦しみ、人知れず闘ってきた経験が知られることは公益に資すると判断し、ここにインタビュー記事を公開する。

「これからの芸能界には、二度と私のような被害者を出してほしくありません。かつての私のような、何も知らない若い女のコが、きちんと守られる世界であってほしいと、切実に願います」

この願いがいつか実現しますように。

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