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佐野史郎、多発性骨髄腫にあった予兆「ずっと腰痛が続いていて…」

佐野史郎、多発性骨髄腫にあった予兆「ずっと腰痛が続いていて…」

「病名を聞いても特に動揺するようなことはなかったし、まったくの平常心でした。それよりも、医者ってこういう言い方をするんだ、告知をされたとき患者はこんな反応をするんだ、なんて俳優の目線で見ていた感じ。職業病ですよね。ショックを和らげるために、どこかで防衛本能が働いていたのかもしれません」

【写真】知っておきたい、がんに関するさまざまなデータ

そう話すのは、俳優の佐野史郎さん(69)。2021年に多発性骨髄腫を患い、闘病生活を送っている。

発見のきっかけはその年の春、映画祭のゲストに招かれ熊本に行ったときのこと。

「突然悪寒がしたと思ったら、その後39度の熱が出て。コロナ禍だったので、これはマズイなと思いましたね」

PCR検査をするも、コロナは陰性。プロデューサーのすすめでクリニックで検査をし、白血球の異常な数値を指摘される。大学病院を紹介され、多発性骨髄腫と告げられた。

連続ドラマの撮影中に

「大学病院を受診するとき、事前に入院の準備をしてきてくださいという知らせがありました。でも僕としてはあまり深く考えていなくて、1週間くらい入院することになるのかな、という程度。ドラマ『リコカツ』を3話まで撮っていたところだったので、迷惑をかけてしまったらどうしよう、なんて思っていました」

多発性骨髄腫はいわゆる血液のがんで、日本人の発症率は10万人に約5人とされる。自覚症状のひとつに腰痛が挙げられ、「兆候らしきものはやはりありました」と振り返る。

「ずっと腰痛が続いていて、それがだんだんひどくなってきていたんです。撮影でダッシュしたとき、背中の筋肉が収縮するような、これまでにない感覚を味わって、イヤだなと思ったこともありました。でも5年前に番組のロケで腰椎を骨折していたので、その後遺症かなと思っていて──」

コロナ禍でスケジュールが前後し、撮りこぼしをカバーすべくハードな日々が続いていた。仕事で気を紛らわせていたところもあったという。

「腰痛以外は問題なかったし、むしろ元気でした。ただがんで亡くなった峰岸徹さんと以前現場でご一緒したとき、“なんか最近腰が痛いんだよな”と言っていたのが記憶にあって。やはりがんで亡くなったシーナ&ロケッツのシーナさんも、腰が痛いと言っていたそうです。だから腰痛が危険なシグナルだということは知っていました。でもちゃんと向き合うのは怖いから」

告知当日、大学病院に入院。コロナ禍の折で面会は許されず、家族には「驚かせて悪いけど」とグループLINEで病名を知らせた。

出演中の『リコカツ』は降板し、平田満に代役を託す。ドラマの放映中ということもあり、公には多発性骨髄腫ではなく、腎機能障害と発表している。

「クレアチニンの数値が異常に高かったので、腎機能障害というのも嘘ではないんです。ただ発表はその段階にとどめましょうということにして。業界ではよくあることです(笑)」

一番つらかったのは「敗血症」

まずはがん治療に耐えうる状態にすべく、腎機能の治療をスタート。治療は順調に進むも、免疫の低下により敗血症を併発する。40度近くの高熱に2週間あまり悩まされた。

「敗血症が一番しんどかったですね。熱だけならまだしも、痛みが非常につらかった。筋膜の痙攣(けいれん)だろうということでしたけど、もう大腿(だいたい)骨に針を刺すような痛みがあって。

抗生剤がなかなか効かず、4種類くらい薬を試しては替えての繰り返し。最終的に飲み薬は効かなくなってしまって、点滴に切り替えています」

解熱剤はもって3〜4時間。熱と痛みに苦しみつつ、同時にリハビリに励んだという。

「ずっと寝ているとあっという間に筋肉が落ちてしまうので、スクワットやストレッチを朝昼晩していました。リハビリの先生が週に2回指導に来てくださって、あとは与えられたカリキュラムをひたすらまじめにこなすようにして」

2か月間の入院治療を経て、一時退院。まだ治療の過程だったが、このときドラマに出演している。長い入院生活で、体力が激減した中での撮影だ。

「シリーズもので、あらかじめ決まっていた作品だったので、迷惑はかけられない。そのときはまだ数値的にも免疫力が低くて、がん細胞もゼロではないので、飲み薬を飲みながらの撮影でした。

息切れはするし、ヘロヘロの状態ではありましたけど、いざ現場に入るともうそういうことは忘れちゃうんですよね」

共演者はじめスタッフには正式な病名を伝えた。現場で何かあってはいけないとの周囲の配慮がありがたかったと話す。「一切、外に漏れなかったんです。こういうことってたいてい広まるものだけど……」というから、このSNS時代に驚きである。

口の中がただれ下痢で6〜7キロ痩せる

その後再入院。造血幹細胞の自家移植を行う。

「身体に管を入れて、洗濯機の大きくなったようなろ過機で血液を循環させていきます。そこで細胞をとるんですけど、グレープフルーツみたいなきれいなピンク色をしてました。

投与すると美容にもよくて、僕も一瞬若返りましたね。髪の毛も増えたし、半年間くらいは肌がつるつるでした(笑)」

加えて抗がん剤による治療に取りかかる。用いたのは最も強いとされる抗がん剤で、やはり副作用に苦しんだ。

「下痢にもなるし、口の中がただれるので氷をずっと含んでいなければなりません。闘病中、6〜7キロは痩せたでしょうか。

だけど、治らないのではないかという不安を感じることはなかったですね。飲むべき薬を飲んだり、目の前にあることをちゃんとやろうという意識でいた感じです」

医師の言いつけをきちんと守り、治療のためにすべきことをする。何とも模範的な患者で、息苦しいはずの入院生活も「慣れ親しんだ空気があるというか……。病院が嫌いじゃないことは確か」と笑う。

もともと島根に150年続く医者一家の生まれで、将来は医師にと嘱望されていた。

「幼いころから医師だった父の背中を見て育ってきたので、病院に行くと今でもどこかホッとするところがあって。だから医者の役にはやはり特別な思い入れがありますね(笑)」

退院後は体重・血圧・体温を毎日計り、体調管理に努めた。現場復帰も早々に果たし、入院時の遅れを取り戻すべく仕事に邁進(まいしん)している。しかし、そこでひとつ落とし穴が。昨年夏、急性腎障害を患い、緊急入院することに。

「退院後は炎症が起きないよう、食事に気をつけてはいたんですけど。わが家は和食中心で健康的なほうではあるけれど、やっぱり外食も多い。疲れもあったし、あと抗がん剤による腎臓へのダメージが少なからずあったようです」

もっと精力的に仕事をしていきたい

闘病から3年がたつ今、体調はと聞くと、「がんは寛解しました。ただ一度がんを発症した人は再発の可能性が高い。そこは覚悟の上ですね」

と淡々と語る。現在は定期的に通院しつつ、再発防止の維持療法が続く。

「今はこの身体の状態を維持していくことが第一。その上で一つひとつすべきことに取り組んでいくだけ。やりたいこと、やらなきゃいけないことがまだたくさんあって。俳優というのは他人を生きる仕事で、本当に難しい。

でもそれを探るのが好きなんでしょうね。もっともっと精力的に、まだまだ仕事をしていきたいという意欲は、前にも増して大きくなっている気がします」

佐野史郎(さの・しろう)●俳優。1955年生まれ。1992年TBS系金曜ドラマ『ずっとあなたが好きだった』で桂田冬彦(冬彦さん)を演じ、脚光を浴びる。その後も、ドラマ・演劇・映画・ドキュメンタリー番組・ナレーション・朗読など数多くの作品に出演するほか、映画監督としても作品を発表。

取材・文/小野寺悦子

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