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モラハラとみなして即排除?「ラヴィット!」への批判に違和感
料理コーナーでの演出が「モラハラ」だと批判の的に……(画像:TBS「ラヴィット!」公式サイトより)
この1週間あまりテレビのバラエティ番組に関するネガティブなニュースが相次ぎ、ネット上に批判の声が書き込まれました。
また、筆者のもとにも「ラヴィット!」(TBS系)、「水曜日のダウンタウン」(TBS系)、「芸能人が本気で考えた!ドッキリGP」(フジテレビ系)と番組名をあげて「この批判はどう見ればいいのか」「どう対応するべきか」と見解を求める民放テレビマンからの問い合わせがあり、制作現場が当惑している様子が伝わってきます。
それぞれの番組でどんな問題があり、何らかの共通点はあるのか。ネット上の批判は妥当で、その構成・演出は「不快」「不適切」なのか。テレビのバラエティ、ひいてはエンタメ全般には何が求められているのか。どこにも忖度せずフラットな視点から、その本質を掘り下げていきます。
いずれも一理ある指摘だった
まず今回のニュースを知らない人に向けて、それぞれ批判を受けた内容をあげておきましょう。
「ラヴィット!」は11月5日の放送で、元料理人の芸人・水田信二さんの料理コーナーがありました。水田さんがコロッケを作る際、威圧的な言動を見せたことにMC・川島明さんが「これはもう『水田信二のモラハラクッキング』ということで。そういうタイトルにしてください」とコメント。
その後もアイドル・=LOVEの大谷映美里さんへの態度に「モラハラ」というテロップを表示させて笑いを取ろうとしたことなどに批判の声があがりました。
本人のSNSのコメント欄では好評だったが……(画像:水田信ニさんの公式Instagramより)
次に「水曜日のダウンタウン」で批判を集めたのは、10月30日放送の「床屋でのシャンプー中に水攻め不可避説」。
ザ・マミィの酒井貴士さんが理髪店でシャンプーされているとき、理容師からシャンプー台にためた水に顔を沈められ、逃げられなくなるというドッキリでした。また、この映像を見たスタジオの出演者が大笑いしていたことも批判されています。
「水曜日のダウンタウン」では、“水攻め”シーンが物議を醸した(画像:YouTube「TBS公式YouTuboo」より)
もう1つの「ドッキリGP」は11月6日、タイムマシーン3号・山本浩司さんがロケ中に肋骨を折るケガを負ったことを番組サイドが発表。山本さんはクマのぬいぐるみから噴出される液体をよけようとして転倒し骨折していたことに、制作サイドの責任を問う声があがっています。
「ラヴィット!」の主な批判内容は、「被害に悩む人もいるハラスメントを軽く扱いすぎ」「モラハラをテロップでイジるのは悪ふざけ」。
「水曜日のダウンタウン」の主な批判内容は、「苦しむ様子を見せるのはいじめ」「水攻めは拷問で特に海外では考えられない行為」。
「ドッキリGP」の主な批判内容は、「番組の安全管理が不十分」「ケガの危険性をわからなかったとは思えない」。
どれも一理ある指摘であり、これらの批判を受けた制作サイドは「不適切ではなかった」と言い切れないのではないでしょうか。しかし、だからと言って「『もうやらない』という結論ありきで排除してしまうのか」は別問題です。
「排除ありきの批判」が危うい理由
今回の3番組は多少なりとも適切とは言いづらいところがあっただけに、批判を受けて何らかの改善策を考えていくことが必要なのは間違いないでしょう。
たとえば、不快感を軽減させる構成・演出とフォローの言葉、見たくない人が避けられる放送・配信での事前告知、リスクを回避する1ランク上の準備と配慮など、制作サイドが対応できることは少なくありません。
制作サイドには、定型的な謝罪や反省のコメントにとどめず、具体的な言葉で発信していく姿勢を求めてもよさそうです。
ただその一方で「批判は世間の総意ではなく、回避できないものとは言い切れない」のも事実。実際、「ラヴィット!」や「水曜日のダウンタウン」を見て「不快」「不適切」などと感じた人だけではなく「面白かった」「笑った」という声も少なくありませんでした。
3番組の中で最も批判が多かった「水曜日のダウンタウン」の水攻めですら、単純に白とも黒とも言いづらいグレーなニュアンスが感じられます。
「テレビで許容される表現の幅」に対する個人の見解に差があり、批判だけを採り上げて排除すると、もう一方の意向を無視することになりかねません。
特に排除ありきの批判がまかり通る世の中では、自分が「不快」「不適切」と思う番組を排除できる一方で、自分が「面白い」「笑った」という番組も排除されてしまう危険性があるのです。
さらに排除ありきの批判がまかり通るムードはテレビ番組にとどまらず、ジワジワと他のエンタメにも広がっていくかもしれません。
もともとテレビ番組は見なければいけないものでも、見ることを避けられないものでもない、あまたあるエンターテインメントの1つ。生命にかかわる衣食住に付帯したものではなく、民放の番組には対価も払っていないなど、排除ありきで接する必然性は感じられません。
フジテレビは、タイムマシーン3号・山本浩司さんがロケで怪我をしたことを発表し、お詫びした(画像:フジテレビ「ドッキリGP」公式サイトより)
「議論停止型」ではなく「対話型」に
もちろん制作サイドが改善策を考えていくことは大切ですが、排除ありきの批判が増えるほど、テレビに限らずエンタメ全体が縮小傾向に向かう危険性があります。
個人の嗜好が細分化される中、より多くの人々がエンタメを楽しむために必要なのは、コンテンツとしての多様性を保っていくこと。
そのためには1人ひとりが排除ありきで批判するのではなく、「このように改善していけばいいのでは」「これくらいは受け入れ合う社会でありたい」などの建設的な姿勢が必要でしょう。
Xや記事のコメント欄を見ていると、「批判を書いておしまい」という“議論停止型”の書き込みが目立ちますが、多様性を保っていくために大事なのは、今後にどうつなげていくのか。
「もうやるべきではない」という排除ありきで議論停止させるのではなく、落としどころを探ろうとするようなコメントがもっと増えていいのではないでしょうか。
これだけ個人の発信が増えた以上、テレビ番組に限らずエンタメ全般の関係者がそれを無視できなくなりました。だからこそ発信する人々は関係者を萎縮させすぎないために議論停止型の批判ではなく、「こうではないか」「こうしてみたらどうか」など対話型の問いかけをしてほしいのです。
また、「どうしても見たくない」という人が回避できる方法もコミュニケーションを取りながら考えていきたいところでしょう。
それらがうまくいけば「不快」「不適切」と感じる人がいるものは減りつつ、エンタメの多様性は守られ、質も上がっていくのではないでしょうか。
“身もフタもない”テロップは必要か
もしこの先も議論停止型の批判がテレビ番組に続くと、制作サイドは困り、悩み、疲れたあげく、やめざるを得ないという結論になっていくでしょう。その結果どこかで見たような無難な企画ばかりになり、多様性どころか表現の幅はどんどん狭くなってしまいます。
それは演芸、映画、演劇、出版、ゲームなどのエンタメ全般も同様。さらにこれまで批判の対象に入りづらかったネットコンテンツにもジワジワと広がっていく危うさを感じさせられます。
では具体的にどんな危うさがあるのか。よく「当事者や被害者への配慮」というフレーズを根拠に批判するコメントを見かけますが、それを書き込む人々は多少の無理があることに気づいていません。
たとえば、「両親やきょうだいを失った人に配慮して、家族のコントやドラマは作ってはいけない」のか。「病気などで体が不自由な人に配慮して、運動するシーンを映してはいけない」のか。「金銭に余裕がない人に配慮して、グルメや旅のロケは行うべきではない」のか。「容姿にコンプレックスを持つ人に配慮して、美男美女を出演させるべきではない」のか。「動物が苦手な人に配慮して、映してはいけない」のか。
これらも「そんな配慮は不要」と言い切れるものではなく、逆に「そうしてほしい」という人もいるかもしれません。決して極論ではなく今回の批判と地続きの話であり、議論停止型ではなく対話型のコミュニケーションが取れていれば、時間がかかったとしても最適化に向かうのではないでしょうか。
もし本当にハラスメント、いじめ、差別などが行われていることが明らかなら、議論停止型に近い批判でもいいのかもしれません。ただ実際はそこまで明らかなものはほとんどありません。
たとえば「ラヴィット!」の“モラハラクッキング”は、水田さんが料理をするときにモラハラのようなことをするというキャラクターコントであり、出演者たちが「モラハラだ!」とそれを指摘するなどのわかりやすい形を採用していました。これをモラハラとみなして即、排除するのは無理があります。
あるいは「これはコントです」「出演者の意思確認を行ったうえで撮影しております」など配慮のテロップが表示されていたら、それはそれで「不要」「台無し」などと批判があがるかもしれません。その他の番組でも、「個人の感想です」「これはハラスメントではありません」などの身もフタもない表示が必要になることを望む視聴者は多くないでしょう。
「明日なき戦略」に走るウェブメディア
そして最後にもう1つあげておきたいのが、議論停止型の批判を加速させる一部ネットメディアの存在。3番組には下記のような批判的な記事が報じられ、中には断罪するようなものも散見されます。
「気軽に扱いすぎ」水田信二のアイドルへの“モラハラ芸”を字幕にする『ラヴィット!』の見識に視聴者ドン引き
「周りにいる人達は地獄」元和牛・水田の“モラハラクッキング”で思い出されてしまったリアル騒動
「不快でしかない」『水ダウ』の“水責め”企画に視聴者まで「胸が苦しくなってきた」集まる拒否感
「笑ってる出演者にも引く」批判殺到の『水ダウ』悪質いじめ企画…“コンプラ以前の問題”に広がる嫌悪感
「ドッキリGP」ロケで人気芸人骨折...「安全対策が行き届いていなかった」トラブル続出に「またしてもフジテレビ」
「またフジかよ」「悲惨で気分悪い」タイムマシーン3号・山本「ドッキリ」で骨折報道に批判殺到…迫られるテレビ業界の“体質変化”
これらは「一部の過激な批判を持ち出してあおることで人々の注目を集めてPVを得よう」という営業戦略であり、テレビ番組のみならずエンタメ全般にダメージを与えている感は否めません。
しかし、本来エンタメが縮小して困るのはネットメディアのほうであり、明日なき営業戦略を採っているようにも見えてしまいます。
また、そもそもメディアは一部の意見だけをピックアップするのではなく、別の意見も含む公平な報道姿勢が求められていることは間違いありません。各編集部はこれらの記事が公平さを欠いていることをわかって報じているだけに、ネットメディアの危うさを感じさせられます。
少なくともこれらの記事を目にするみなさんは、あおりに乗るような形でエンタメを縮小させることに加担しないほうがいいのではないでしょうか。
テレビにいまだ影響力がある証し
エンタメ全体で考えると主なコンテンツにはテレビだけでなく動画配信サービスやYouTubeなどもあります。それぞれ「不快」「不適切」と感じるものもあるのでしょうが、なぜテレビ番組ばかり批判されるのか。
それはテレビが昭和時代から大きな影響力を持ち続けてきたことへの反動であり、それがいまだに大きいことの証しにも見えます。これだけ配信が発達・普及した今、「公共の電波だから」という理由だけで批判するのは強引な感がありますし、あらゆるコンテンツを公平に見ていく時代に入ったのかもしれません。
個人が尊重され、自分らしい生き方を選びやすくなる一方で、そこから離れたものを拒絶したくなるのは自然な感情にも見えます。だからこそ多くの個人を尊重するためにエンタメの多様性をどのように守っていくのか。
見るほうも作るほうも互いを尊重しながらコミュニケーションを取ることが、それぞれの幸せにつながるような気がしてならないのです。
(木村隆志:コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)
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