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「もっと早くから危機感をもっていれば」膣がん女性が死去前に語った後悔

「もっと早くから危機感をもっていれば」膣がん女性が死去前に語った後悔 (全6枚)

腟がんと診断されながらも前向きに治療に向き合ってきた「さやちぇる」さん(仮称)は、9月下旬に惜しまれつつ他界されました。ご本人・ご遺族の意向を受け、生前に取材した闘病体験談をお届けします。がん検診も会社の健康診断でもずっと「異常なし」だったというさやちぇるさんが、ある日医師から告げられたのは「ステージ4」。目の前が真っ暗になったところから、どのように気持ちを切り替え、どのように治療に望んだのでしょうか?彼女の体験を通じて、腟がんという病気を知り、病気に対する理解を深めるきっかけにしてもらえれば幸いです。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2024年7月取材。

≫【イラスト解説】腟がんの疑いがあるしこりの特徴「もっと早くから危機感をもっていれば」膣がん女性が死去前に語った後悔

体験者プロフィール:
さやちぇる(仮称)

1991年生まれ、大阪在住、2022年に腟がんと診断される。放射線治療と抗がん剤治療を併用し治療してきたが、放射線治療の副作用で歩行困難、ストーマ造設、腎ろうなどで身体障害を抱えることになる。度々起こる不正出血で輸血や入退院を繰り返し、月に一度、通院しながら免疫療法『リブタヨ』治療を進めていた。2024年9月25日に永眠。

「もっと早くから危機感をもっていれば」膣がん女性が死去前に語った後悔

記事監修医師:
鈴木幸雄(神奈川県立がんセンター/横浜市立大学医学部産婦人科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

「5年生存率は半分以下」と言われ目の前が真っ暗に

「もっと早くから危機感をもっていれば」膣がん女性が死去前に語った後悔

編集部

最初に不調や違和感があったのはいつですか?

さやちぇるさん

もともと生理不順で、生理が来たり来なかったりしていたこともあり、子宮頚がん検診は近所の婦人科で半年に一度、さらに会社の健康診断としても1年に一度受けていましたが、ずっと異常なく、再検査になったことすらありませんでした(※1)。しかし、2021年12月から生理が終わらずにずっとダラダラと出血が続きました。最初はあまり気に止めず、そのうち収まるだろうと考えていたのですが、年明けから臀部痛が出始め、市販のロキソニンなどを飲んで痛みに耐えるようになりました。レバー状の血の塊がたくさん出るようになり、トイレに引きこもって血が落ち着くのを待ったり、目の前がクラクラして座り込んだりするようになり、違和感がだんだん強くなっていきました。

監修医註・※1
一般的には子宮頸がん検診は、2年に1回の細胞診または5年に1回のHPV検査単独法が推奨されており、毎年受けても効果が上がらないことには注意が必要です。
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/cervix_uteri.html

編集部

それで病院を受診されたのですか?

さやちぇるさん

はい。近所の婦人科でいただいた薬では出血は止まらず、臀部痛もあったので「婦人科以外の病気かも」と思い、整形外科などほかの診療科の病院を3件受診しましたが、出血も臀部痛も変わりませんでした。大きい病院などに紹介してほしいとお願いしても「レントゲンや採血、エコーでも特に問題ないから」「ホルモンバランスの乱れかな」という感じの返答だったんです。しかし、痛みは増していく一方で、ある夜、レバー状の血の塊が大量に出続け、いつまで経っても止まらずに目の前がクラクラし始めたので救急医療相談窓口に連絡すると、すぐに夜間救急で対応してくれることになりました。

編集部

そこからどうなったのですか?

さやちぇるさん

診てもらっている最中にも出血が収まらず、検査中に意識が朦朧とし、看護師さんや先生の掛け声が僅かに聞こえるだけでした。腟にガーゼを詰め点滴をして検査を待ち、家族になんとか電話をして「緊急入院する」と伝えました。朝に家族が来てくれましたが、新型コロナ感染拡大の影響で面会は出来ず荷物の受け取りだけだったようです。出血の影響で貧血だったため輸血を行い、回復を待ちました。やがて、医師から「腫瘍があります。確定ではありませんが、大きさ的に悪性だと思います」と言われ、これからMRIやCT、足の血栓などの検査をすると説明を受けました。もし肺などに転移しているとできる治療が限られてくるとも言われました。

編集部

検査結果はどうだったのですか?

さやちぇるさん

子宮頸がんの可能性もあれど、腟がんの可能性が高く、その病院ではさらに詳しい検査などもできないようでしたので、転院になると言われました。姉が看護師なので、先輩や先生などに病院の情報を聞いてくれたり、従兄弟も放射線技師なのでいろいろ情報収集してくれたりして決めた病院に紹介状を書いてもらい、転院することにしました。そこでまた一から検査を行い、その日に診断結果が出て、病名がわかりました。

編集部

その時どのように感じましたか?

さやちぇるさん

母と一緒に診察室に呼ばれ、CT画像を見ながら、病名は『腟がん(ステージ4)』で、希少がんと説明されました。自分ががんだとは信じられず、全く先生の話が入って来ない中、泣きながら母としっかり手を繋ぎ、「これは悪い夢だ!目覚めて!」と願っていました。しかし、全ては現実で、看護師さんが私の涙を拭きながらずっと背中をさすり、優しい言葉をたくさんかけてくれました。治療するにあたって治療がうまくいっても子どもは産めないし、5年生存率は45~50%であると言われ、目の前がさらに真っ暗になりました。

意識を失い、気がついたら集中治療室にいた

「もっと早くから危機感をもっていれば」膣がん女性が死去前に語った後悔

編集部

どんな病気なのでしょうか?

さやちぇるさん

腟がんは、腟壁(腟の壁)の表面をおおう粘膜から発生する腫瘍で、不正出血やおりもの、性交時の痛み、下腹部の痛み、排尿時の痛み、腟内のしこり、便秘などの症状が出ますが、初期にはほとんど表れず、症状が表れたときには既に進行していることがほとんどのようです。

編集部

どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?

さやちぇるさん

腫瘍の位置や厚みなどを見ると手術はできないので、放射線治療と抗がん剤治療を並行しながら進めていくとのことでした。「腫瘍に厚みがあり石のように硬いため、放射線治療の回数は40回の予定で腟内照射に組織内照射を組み合わせて行います」と言われました。腟内照射とは、子宮や腟に専用の器具を挿入して照射する治療で、組織内照射は、腫瘍に直接針を刺し腫瘍内部に放射線源を送り込むことで、腫瘍に集中的な治療が可能で私の場合は針を5本刺して治療を行うと説明されました。

編集部

そのときの心境について教えてください。

さやちぇるさん

腟内照射や組織内照射は、何度調べても「痛みが強い」という情報があったので、受けるかどうかギリギリまで迷いました。腟内、しかも針がどうしても怖くて勇気がでなくて悩み、泣いていました。先生からは、「どうしても嫌でしたら、外から当てる放射線の回数を増やして治療する方法でも良いですが、再発の可能性は上がります」と言われ、死ぬことのほうが怖かったので、腟内照射と組織内照射を受けることに決めました。

編集部

実際の治療はどのようにすすめられましたか?

さやちぇるさん

シスプラチンという抗がん剤を1泊2日の入院で6クール受けました。副作用はそこまで強くなく、脱毛のほかに吐き気や耳鳴りなどだけで終えることができました。放射線治療では、回数を重ねるごとにデリケートゾーンのただれなどが出てきて、歩くと擦れるので痛みに耐えられず移動は全て車椅子にし、軟膏を処方してもらいトイレの度に塗っていた日々でした。腟内照射と組織内照射では、1回目は意識が朦朧とした中の治療でしたが、あまりの痛さに飛び上がるほどでした。我慢できないほどの痛みでしたので、動くと危険ということもあって2回目と3回目の腟内照射と組織内照射ではさらにしっかりした麻酔をかけてもらい、治療を受けました。

編集部

現在に至るまで、何か印象的なエピソードなどあれば教えてください。

さやちぇるさん

腟内照射と組織内照射を全て終えて退院する予定でしたが、微熱があり、少し炎症反応も高いということで、急遽そのまま入院することになりました。「体調は悪くないのになぁ」と思っていましたが、急に悪寒と熱さが交互にきて、電気毛布をつけたり外したりしてもらっているうちに息も苦しくなってきて、人が何重にも見えて気分が悪くなりました。「しんどいです……」と話したところまでは覚えているのですが、そこから記憶がなく、気がついたらICUの病室でたくさんの先生に囲まれていました。ガラス越しの窓から家族が泣いている姿も見えて、先生から「敗血症を起こしていて、もう少し対応が遅れていたら死ぬところでした」と言われました。組織内、腟内照射の処置の時に菌が入り込んだんだろうと言われ、治すための処置で菌が入り敗血症になるなんて想像も付かなかったので驚きました。

3人に1人はがんになる時代検査はしっかり受けて!

「もっと早くから危機感をもっていれば」膣がん女性が死去前に語った後悔

編集部

病気の前後で変化したことを教えてください。

さやちぇるさん

直腸腟瘻(直腸と腟が瘻孔で繋がってしまうこと)になり、ストーマ(人工肛門)を造設することになりました。また治療中に片方の尿路が閉塞したため、片側は腎ろうになり排尿はカテーテルを通して行っています。排便、排尿が自分の意思でできなくなったことで生活が大きく変わりました。

編集部

今までを振り返ってみて、後悔していることなどありますか?

さやちぇるさん

婦人科って何かきっかけがないとなかなか足が向かず、仕事も休みづらかったので、後回しにしていました。普段から生理不順があったのに、半年や1年に1回の検診で何もないからと安心していたことを後悔しています。今回もなかなか生理が終わらなかったのに、あまり深く考えていませんでした。痛みが出始めてようやく行動したものの、その頃にはがんが進行していてこのような結果になってしまったので、もっと早くから危機感をもっていればと思っています。

編集部

現在(取材時)の体調や生活はどうですか?

さやちぇるさん

最初に受けた抗がん剤治療とは別の抗がん剤で治療をしていたのですが、4回目まではなんとか受けたものの、そこまでの効果は見られていないのと、薬が強すぎて副作用もきつく、このまま続けると命を短くしてしまうと言われて中断することになりました。薬の副作用で体力も落ち、いろんな血液の数値が悪くなっている状態なので、今は体力をつけて数値を安定させることに専念しています。治療中は副作用も強く、歩くのも困難でなかなか外出できなかったので、今は体調の良い日は家族で外食したり買い物に連れて行ってもらったりしています。

編集部

医療機関や医療従事者に望むことはありますか?

さやちぇるさん

これから前向きに治療受けようと頑張っているところにネガティブな情報をはっきりと告げられることもあって辛かったです。一時期は病院に行くことすら嫌で心が落ち着かず、治したい気持ちはあっても「またマイナスなことを聞かされるかも」などと考えて、逃げたくなることが何度もありました。患者さんによって1人の時にマイナスなことを聞かされるのは本当に怖くてきついものです。そういう話をされるときは、家族と一緒だったり、先生以外の医療スタッフも含めて不安が軽くなるような状況作りをお願いできたらと思います。

編集部

最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。

さやちぇるさん

面倒がらず後回しにせず、不調があればすぐ病院へ行くこと。とくに、婦人科系の悩みは放置せず、検診はしっかり受けてほしいです(前出※1)。私も、まさか自分ががんになるなんて思ってもみませんでしたが、今は3人に1人はがんになる時代で、いつ誰がなっても不思議ではありません。がんも早期発見できると治療の幅も広がり、完治する率も高いので、やはり症状が出る前の検診を大事にしていただきたいです。私の場合、がんそのものというより、治療の副作用で体が不自由になった部分もあるので、そうならないためにも、せめて体に不調があるならすぐ診てもらうようにしてほしいです。

編集部まとめ

ご遺族によると、生前のさやちぇるさんは本取材に対して「こういう取材を受けるんだ」と語り、意欲的に取り組んでくれていたそうです。編集部としては、『(さやちぇるさんが読者の)皆さんに伝えたかったことなので、記事にしていただきたい』との言葉を受け、公開に踏み切りました。さやちぇるさんが語ってくれたように、定期的な検診や異常を感じた際の早期受診がとても重要です。彼女のメッセージが、同じような状況にある方々にとって、一歩踏み出すきっかけになれば幸いです。

なお、MedicalDOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。

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