１９日午前２時４０分ごろ、北九州市小倉北区魚町４丁目、旦過市場（たんが・いちば）の一角から出火していると１１９番が相次いだ。約１６００平方メートルを焼き、市場は広範囲にわたって焼失。被害は約４０棟とみられる。けが人は確認されていない。大正時代に誕生した同市場は「北九州の台所」として親しまれており、生家が焼失したタレントの中村ゆうじ（６５）がスポーツ報知の取材に応じ、悲痛な思いを語った。

この日昼のニュースで火災を知った中村は「『うわ、これうちが入っている』と思って気分が真っ暗になりました」。生まれ育った市場が燃えている。急いで生家の隣にある魚屋「川原」の店主にＬＩＮＥで連絡を取ると、返信には「燃えちゃいました」とあった。生家も焼失していた。

昭和の風情を残す市場が、あっという間に火の海に包まれた。北九州市消防局によると、消防車二十数台が出動し、住民や市場関係者らが、遠巻きに消火活動を見守った。爆発音を響かせて炎が上がり、密集した木造建築は黒焦げに。中村は「同級生も何人か市場で店をやってますが、『明日からの仕事をどうすればいいのか。従業員はどうすればいいのか』と。大変な状況です」と声を絞り出した。

ＪＲ小倉駅から南西に約６００メートルの場所にある旦過市場は、約１２０店舗が連なり、地元住民や観光客に「北九州の台所」として親しまれてきた。中村は市場内にあった「中村靴店」で自宅出産で誕生。中学２年の時に父親が体調を崩して引っ越したが、たくさんの思い出が詰まった場所だった。

中村は現在の大食いブームを生んだテレビ東京系の人気番組「ＴＶチャンピオン」のＭＣを務めるなどタレントとして活躍。生家の建物には洋菓子店「藍昊堂菓子舗（あおぞらどうかしほ）」が入っていたが、４年前に同店を再訪した。店主に建物の２階に案内されると、部屋は中村が暮らしていた当時のままの姿だった。「僕らが貼った日活の映画のポスターもそのまま貼ってありました。あの家だけはあの時のままあったのですが…。火災で自分の根っこがなくなったみたいな気分です」

１９９９年にも１２棟を焼く火災があった市場は、老朽化で防災面が課題となり、再整備が計画されている。福岡県警小倉北署は消防と協力し、出火当時の状況を調べる。

「木造で、僕が生まれ育った時と何一つ変わってないんです。タイムマシンに乗ったみたいに、昭和がそのまま全部残っている市場でした。あんな市場は日本で他にないんじゃないかな。今回の火災で再整備には拍車がかかると思いますが、もうあの味は戻らないと思います」。中村は思い出を振り返り、肩を落とした。（瀬戸花音）

◆中村ゆうじ（なかむら・ゆうじ）本名・中村有志。１９５６年７月８日、福岡・北九州市生まれ。６５歳。福岡県立小倉南高卒業後に上京し、シティボーイズ、竹中直人、宮沢章夫らの演劇ユニット「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」で活躍。テレビ東京系「ＴＶチャンピオン」のＭＣを務め、さかなクン、ギャル曽根らの名付け親としても知られる。

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