TikTokで7億回再生のFRUITSZIPPER「わたしの一番かわいいところ」や28億回再生の超ときめき♡宣伝部「すきっ！」の振り付けを手がけた槙田紗子さん。現在、"バズる振付師"として注目されているが、もともとアイドルグループ「PASSPO☆」のメンバーで、現在はアイドルグループ「Hey!Mommy!」のプロデューサーも務めている。アイドル、プロデューサー、振付師と多角的な視点を持つ槙田さんに、現在のアイドルとダンスの変遷について聞いた。【徳重龍徳／ライター】

【写真を見る】「『なんで、みんな踊れるの!?』となるくらい難しい…」元アイドルの視点から坂道系のダンスを読み解く

槙田さんはプロデュースするグループに加え、数多くのアイドルグループの振り付けを担当し、アイドルと接する機会が多い。自身が現役アイドルだった2010年代と現在のアイドルを比べた時、大きな違いとして挙げるのがダンススキルだという。

「今はダンスを踊れる子が本当に増えたと思います。私は振り付けで複雑なことをやりがちなんですけど、そこにもついてきてくれる。ダンス経験がある、ないに関しての比率は昔と一緒なのかもしれないですけど、ダンスができるアイドルたちがやっていることはどんどん複雑化してきていると思います」

槙田紗子が“アイドルとダンス”を語る（撮影・徳重龍徳）

槙田さんが所属した「PASSPO☆」も活動した2010年代はアイドル戦国時代と呼ばれ盛り上がりを見せた時期だが、「ライブでお客さんと盛り上がるため、簡単に真似ができるということを大事にしていた時代」だったという。

「もちろんダンススキルがすごくあるグループもいました。たとえばエイベックスの『SUPER☆GiRLS』のメンバーはみんなすごく踊れたんですけど、振り付けはめっちゃ簡単でした。『わーすた』もK-POPみたいなダンスも上手く踊れる子たちですが、あえて踊らせない。かわいくて、ファンの人が理解しやすい振り付けにしています。ほかにも『アイドルライフスターターパック』がTikTokでバズっている『iLiFE!』や『FES☆TIVE』といったグループはライブを重視して、ファンもわかりやすい、ずっとリピートする大きな振りです。その一方で『FRUITSZIPPER』や『アップアップガールズ（仮）』は振りだったり、フォーメーションも難しいことをやっている。今は踊れるグループは踊るという傾向だと思います」

坂道系のレベルの高さ

ハイレベルなことをやっているアイドルグループとして挙げるのが乃木坂46、欅坂46、日向坂46の“坂道系”と呼ばれるアイドルたちだ。

「坂道系のダンスを見ると、なんでこんな難しいことを平気でやっているんだろうってびっくりします。AKB48もそうですが、秋元康さんプロデュースのグループってそもそも自分たちでパフォーマンス重視とか言わないですし、そこを売りにしていない。なので、みんな先入観があって、坂道系はダンスができないというイメージがあると思います。彼女たちが当たり前にできているので、振り付けの難易度に注目されていないんですが、私でも踊れないかもと思うくらい難しいことをやっています。そして実際のパフォーマンスの完成度がめっちゃ高いんです」

槙田さんは難易度が高い曲として乃木坂46の「インフルエンサー」を挙げる。

「振り付けを担当したSeishiroさんのレッスンを以前、私も受けたことがあるんですが、振り付けがあり得ないくらい難しい。なのでインフルエンサーを見ると『なんで、みんな踊れるの!?』となるくらい難しい。こんなに難しい振り付けの曲が、レコ大みたいな一般的な賞を取るんだって驚きました。乃木坂ってみんなグループ全体として見ているからあまり気づかれないんですけど、一人ひとりを見るとまじでみんなダンスがうまいんですよ」

坂道系でもダンスが上手いアイドルとして挙げたのが、日向坂46の影山優佳だ。

「最近うまいなと思ったのは影山さんですね。私が影山さんの踊り方が個人的に好きというのもあるんですけど、1個1個の動きにメリハリがあって、動きも大きくてすごく上手だなと思ったんです。手の動きであったり、動きに感情を乗せるのがうまい。あと日向坂キャプテンの佐々木久美さんもうまいです」

槇田さんによれば、メジャーアイドルは常に見られている緊張感、そしてテレビの収録やミュージックビデオなどで客観視して自分たちの姿を見られることが大きいという。ライブこそがダンスを磨く場にも思えるが、そこは違うと話す。

「実はライブって、ダンスができなくてもごまかせちゃうところがあるんです。ファンは推しだけを集中して見ていますし、ステージを一枚の絵として見ていないので、ミスがミスに見えない。またライブは空間を感じる、楽しむ場なのでダンスが揃ってなくてもごまかせてしまうんです。でもミュージックビデオやテレビは画面を絵として見ます。私もPASSPO☆のとき、ライブだと揃っているように見えたダンスが、テレビだと揃って見えないことにびっくりしました。メンバーも『なんで、テレビだとこんなにやばいんだろう』と映像チェックしたときに、あまりの下手さにみんなドン引きしてましたね。メジャーなアイドルって常に映像の中に映る自分を意識しているから、動きが綺麗なんだと思います」

日本のアイドルとK-POPの「違い」

日本のアイドルだけでなく、K-POPのアイドルにも変化はあるのだろうか。

「K-POPはTWICEがいる限り、手振りが多く、フォーメーション移動がすごい感じが続くと思います。そのTWICE以降の流れを、今、NewJeansが壊している最中です。NewJeansは手先の動きがなく、体全体の動きで見せています」

さらにK-POPとJ-POPでは全体の動きに大きな違いがあるという。

「これは映像のカメラマンが話していたんですが、日本のアイドルはAメロではぎゅっと集まるけど、サビでは大きく広がるという動きが多いですが、TWICEなどK-POPのフォーメーションって全体を映すためカメラを引いたときに、縦で収まるようになっているんです。ダンスプラクティス動画を出すのも当たり前になっているので、フル尺を縦で撮れるようになっています。メンバー同士の距離が近い中で激しく踊っているので、手を出す角度や手の動線までも気にしているだろうし、すごく練習してるんだろうなって思います。一方で、NewJeansは真ん中だけでなく、中心からはみ出ますし、そこでもこれまでのK-POPの流れも変えています」

K-POPの人気で、日本国内のダンススキルも上がってきている。

「まずキッズのダンススクールが増えましたね。私は仕事のため、ダンススタジオに常にいるんですけど、廊下に出るとK-POPがそこかしこから聞こえてくる。若い子がダンススタジオを借りて、友達とダンスの練習をしているんです。そして動画を撮ってTikTokにあげる。カラオケみたいな感じで、ダンススタジオに入って、一緒に踊って、TikTokを撮るのが遊びの一つになっています。TikTokでも前までだったら簡単な振り付けしか踊れないし、流行らないって感じだったんですが、今は難しい振り付けをダンスチャレンジとして、一般の子が平気で踊ったりしています」

アイドル、ひいてはJ-POP全体のダンスの難易度は上がる傾向にはあるが、槙田さんはむしろ難易度を下げることが必要だと語る。

「子どもが踊れることがダンスの究極なんじゃないかと考えていて、個人的には簡単な振りを作っていかなきゃいけないと思っています。YOASOBIの“ツバメダンス”、パプリカもそうですけど、踊りを大きくとらえたときにみんなが踊れることこそが意味を持っている気がしています。今はこんなに踊れますよ！という技術を見せるためのダンスになってきていますが、そうではなくて、音楽にのるのってすごく楽しいねというのがダンスの本質かなって。そこは自分に対しての課題にしています。ただ簡単な振りでインパクトを作るのがすごく難しい。料理と一緒ですね。シンプルだけどおいしいのが一番難しい。今、日本はK-POPの影響で技術を見せる方向に向かっているんですけど、結局日本はK-POPにはなれない。だからダンスの傾向も戻るんじゃないかと思ってます」

徳重龍徳（とくしげ・たつのり）
ライター。グラビア評論家。大学卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。記者として年間100日以上グラビアアイドルを取材。2016年にウェブメディアに移籍し、著名人のインタビューを担当した。現在は退社し雑誌、ウェブで記事を執筆。個人ブログ「OUTCAST」も運営中。Twitter:@tatsunoritoku

デイリー新潮編集部

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