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「NHKのど自慢」生バンド廃止の裏事情 元司会者・宮川泰夫も嘆き

「皆さん緊張して、歌がつまるとか、歌い出しに入りそこねるとか、よくあります。そういうとき、バンドさんが伴奏をすっと合わせてくださる。司会としては安心感がありました」

【貴重写真】「のど自慢」の前身である「のど自慢素人演芸会」の公開収録の様子

 

そう語るのは、元NHKアナウンサーで、1993年から12年にわたり「のど自慢の顔」として司会を務めた宮川泰夫氏(78)だ。

1946年から続く「NHKのど自慢」が4月2日、大幅にリニューアルした。中でも視聴者を驚かせたのが、70年以上バンドの生演奏だった出演者の伴奏がカラオケに変わったことだ。

小誌はリニューアル2日後のNHKの内部資料「視聴者意向集約日報」を入手。

「好評意見2件に対し、不評意見は14件。『ただのカラオケ大会』『醍醐味が消えた』など批判の声が上がっている」(NHK職員)

「NHKのど自慢」生バンド廃止の裏事情 元司会者・宮川泰夫も嘆き
改変直後のNHK「視聴者意向集約日報」

複雑な思いを抱くのは視聴者だけではない。前出の元司会者・宮川氏が嘆く。

「敗戦直後にアコーディオンの伴奏で始まってから、伴奏も含めたアナログな風景が、『のど自慢らしさ』でもあった。長年見てきた身ですから、心配というか、寂しさがありますね」

舞台裏でもバンドの存在は不可欠だったという。

「私の頃は平均で1000通の応募があった。無作為で250組まで絞り、本番前日に実際のステージで予選をします。膨大な曲数ですが、バンドの皆さんがイントロを短くアレンジして、サッと伴奏をつけてくれる。年配の方の『ゆっくり歌いたい』などのリクエストにも応えてくれました」(同前)

99年から約23年、バックバンドでピアノや編曲を担当した西原悟氏もこう肩を落とす。

「去年の11月頃、プロデューサーが『予算が下りず、バンドを削るしかない』と。のど自慢は本番用の曲も当日朝まで編曲し、最後はへとへとですが、それでも楽しかった。緊張している人には『頑張れ!』とか心の中で応援しながら、歌う人と一緒に音楽を作る。単なる採点大会ではない人間の営みというか、音楽の原点がきちんとある番組でした」

バンドならではの“対応力”も磨いてきた。

「高齢の女性が、応募と全く違う演歌曲を突然歌い出してしまい、慌ててそれらしい音を弾いて乗り切ったこともあります」(同前)

「『のど自慢』の制作費は1本約900万円。バンドの費用はうち120万円ですから…」

のど自慢の制作経験もあるNHKの元職員が大幅改変の“裏事情”を明かす。

「表向きの理由はいろいろありますが、実際は“コストカット”のポーズを見せたいから。1月に退任した前田晃伸前会長体制では、とにかく『制作費削減』と『若者向け改革』が進められ、その方針におもねった番組だけが評価されました」

ただ、こうも付け加える。

「『のど自慢』の制作費は1本約900万円。バンドの費用はうち120万円ですから、削れる費用もたかが知れている。『若者どころか誰も見なくなってしまう』と憤っている局員も多い」

4月10日、前田前会長を訪ね、事情を聞いた。

「バンドがなくなったの。それは、知らなかったねえ」

――不評の声も多い。

「余計な事喋ると色々書かれちゃうからね。でも、あれだけ視聴者が飽きない番組は珍しい。番組の『らしさ』は大事にしないとね」

4月19日の定例会見でもバンド廃止の理由について説明を求められたNHK。その内容は、小誌の質問に対する広報局の以下の回答とほぼ同じだった。

「音楽の多様化が進み、バンド編成の生演奏では対応しにくい状況も生まれてきており、出場者のみなさんが力を出し切れなかったという不本意な思いを少しでもしないようにするため、普段慣れ親しんでいるカラオケ音源に変更しました」

NHK、“経営音痴”になってない?

(「週刊文春」編集部/週刊文春2023年5月4日・11日号)

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