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当の別班員たちは、いま絶好調のTBS日曜劇場『VIVANT』（日曜よる9時〜）をどう捉えているのか？――同番組の参考文献として話題を呼んでいる『自衛隊の闇組織秘密情報部隊「別班」の正体』の著者・石井暁氏が取材を進めたところ…意外な事実が判明した。

元別班員たちは放送前から知っていた！

スマートフォンをチェックすると「聞いています。『VIVANT』は『別班』のことなんですよね？音が似ていますね」とメールの返信が入っていた。

photobyistock

『VIVANT』がスタートしたのは、7月16日。この返信が入ったのは、その1ヵ月ほど前のことだ。『VIVANT』は事前にあらすじなどを一切明らかにしていなかったはずなのに。

身分を偽装した自衛官に海外でスパイ活動をさせている陸上自衛隊の「別班」という秘密情報部隊を約5年半かけて筆者が取材し、共同通信の記事として加盟各紙の朝刊に掲載されたのが今から約10年前。

さらにその取材をまとめて5年前に『自衛隊の闇組織秘密情報部隊「別班」の正体』を上梓していた著者は今年3月に入ってすぐ、拙著が『VIVANT』の参考文献になっていることや、『VIVANT』のテーマが「別班」だと聞いた。

その後、かつて取材に応じてもらった10人弱の元別班員らに理由は告げずに、「7月16日スタートの『VIVANT』をチェックして下さい」とメールや電話で伝えた。

驚くべき結果だった。

冒頭に掲げたメールのように、ほとんどの元班員たちがすでに知っていたのだ。

まだ『VIVANT』が始まっておらず、もちろん、いまほど注目されていたわけでもないのに、いったいなぜ――。別班員が、陸自隊員の中から厳しい条件で選抜され、陸自小平学校（現情報学校）の「心理戦防護課程」で極めて特殊な教育、訓練を受けた「情報戦の専門隊員」だからなのだろう。

別班での任務を終えたあと、全国各地の部隊に異動しても、その持っている高い能力に変わりはない。これまで「影の軍隊」などと言われて日陰者的存在とされてきた別班がテレビドラマのテーマになることに、元班員たちも感慨深いのではないか。

別班員の危険な任務

『VIVANT』の登場人物たちは、爆発に巻き込まれたり、現地警察の部隊に銃撃されたり…。

現実の別班はどうか。そこまで派手ではないが、海外に派遣されている実際の別班員も常に危険と隣り合わせだ。

別班員たちは、海外に派遣される際には自衛官の籍を抹消し、他省庁の職員に身分を変えることもある。現地では日本商社の支店などを装い、社員になりすました別班員が協力者を使って、軍事、政治、治安情報を収集している。

派遣先の軍、警察、治安機関にとっては、まさに「監視対象」。万が一、それらの組織に逮捕、拘束されないという保証はなにもない。ましてや政府・防衛省は別班について「過去も現在も存在していない」と否定し続けている。「逮捕されたら国家に見捨てられる」。“トカゲのしっぽ切り”への恐怖が常に頭の中にある。

危惧されている「人格破壊」

『VIVANT』の登場人物についても表現されていると思うが、別班員にとって、もう一つの危険は人格の破壊だ。

別班員養成機関である小平学校（現情報学校）心理戦防護課程の教育がまさに“洗脳”と表現するにふさわしい非人間的なものであることだ。さらに別班員となってからの非合法な仕事がいかに苛酷で、人格を破壊するか。

元別班員と会ってまず気になるのが、彼らの眼だ。相手の心の中を透視でもするかのような冷徹な眼だ。

一人の元別班員は心理戦防護課程について「完全な洗脳教育。以降妻子に対しても心の中で壁をつくってしまう」。別の元班員は「喜怒哀楽など、自分の感情を完全にコントロールできるようになってしまった」と課程での教育を強く批判した。

さらに別の元班員たちは「絶対に素の自分は表に出せない。それがストレスで、休日は家族に嘘を言って漫画喫茶に行って、ひとりでぼんやりしている」。「別班員は本性を出さない。一種の精神的な病気だ」。「親友がいなくなった。人生を変えられてしまった」などと嘆くのだった。

首相さえ知らされていない実体

『VIVANT』の放映によって、これまで日陰者扱いだった「影の軍隊」にスポットライトが当てられた。「別班」に関心を持ってくれる人が増えたのはその存在を考え直す絶好の機会だと考える。

拙著で訴えたかった最大の問題は、「別班」の存在が民主国家の根幹を脅かすということだ。「別班」が独断で行ってきた海外情報活動は、政府や国会が軍事組織を統制して暴走を防ぐ文民統制に反する。外事警察の海外展開とは本質的に違うのだ。

さらに陸自は首相や防衛相にも知らせず、その指揮監督も受けないまま、長年にわたって勝手に海外で活動させてきた。政治のコントロールを受けず、組織の指揮命令系統から外れた部隊の独走は、国家の外交や安全保障を損なう恐れがあり、極めて危うい。張作霖爆殺事件や柳条湖事件を独断で実行した旧関東軍の謀略を挙げるまでもない。

『VIVANT』を見て、拙著に少しでも関心を持ってくれる人がいればありがたい。

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