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「『世界に一つだけの花』のあとグループの仕事が忙しくなり…」稲垣吾郎(49)が30代前半に“本当はやりたかった仕事”
11月10日に最新主演映画『正欲』(監督:岸善幸)の公開を控える稲垣吾郎には「30代前半、もう少しやっておきたかったな」と今も思い残す仕事があるという。映画、舞台など様々な分野で活躍し続ける彼に、これまでの歩みを尋ねた。(全2回の前編/続きを読む)
【画像】稲垣吾郎の撮り下ろし写真約30枚を一気に見る
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「アイドルグループの一員が悪役を演じることは、当時はそれほどなかった」
――近年、俳優の仕事に精力的に取り組んでいますが、大きな転機になったのは『十三人の刺客』(2010)ですか?
稲垣たしかにそういう印象を持つ方が多いのかなと僕も思います。インパクトのある作品でしたから。いまだに言われることが多いです。むしろそれしか言われない(笑)。まあ、ありがたいことですけどね。そういうことが俳優にはあるんじゃないかな。特定の作品ばかり取り上げられるって。
©️榎本麻美/文藝春秋
――でもそれだけインパクトの大きな作品でしたし、残酷で狂気を宿した殿様役はそれまでの稲垣さんにはない役柄でした。
稲垣それまでになかったことをやったので、衝撃を受ける人が多かったのかもしれないですね。アイドルグループの一員があれほど悪い敵役を演じることは、当時はそれほどなかった気がします。メンバーはいろいろな役をやっていたけど、少なくとも僕がやるのは新鮮だったのかもしれません。
――お話を聞くかぎりとても客観的ですが、周囲の反響ほどにはご自身に実感はなかった、ということですか?
稲垣全然なかったです。というのも、『十三人の刺客』でとにかく大変だったのは“13人”を演じた方たちでしたから。山形県の庄内映画村で真夏にロケをやって、そうとう大変だったと思いますよ。
僕はスケジュールの都合もあって、東京と庄内村を何度か行き来して、その都度まとめて撮影してもらいました。庄内村に行くととんでもない変な役をやって、東京に戻るとまたグループの仕事をして。どこか気分転換みたいな感じで、楽しくやっていたんです。お前、舐めてるのかと言われそうだけど。
山田孝之くん、伊勢谷友介さん、窪田正孝くんに松方弘樹さんも大変そうだったけど…
13人の刺客を演じた中には、役所広司さんを始め山田孝之くん、伊勢谷友介さん、窪田正孝くんに松方弘樹さんもいらっしゃいましたけど、「昨日は朝まで撮影だった」などとみなさんが話している一方で、僕は家臣役の市村正親さんと撮影後に美味しいものをいただいたりして。それが意外と反響のある作品になったので、ちょっと申し訳ない気がしました(笑)。
肩の力が抜けていた、ということなのかもしれません。三池崇史監督の演技指導もとてもわかりやすくて、現場の空気が本当によかったんです。三池組はあれだけディープなものを作るのに、怒鳴る人なんかひとりもいない。10年前はまだピリピリした現場が多い時代でしたけど、穏やかなんですよね。
そういう意味では穏やかに、楽しくやっていただけだったので、完成作を観たときに「え!」って。それくらい肩の力が抜けていたから、自分の中の極悪さや狂気みたいなものが出やすかったのかもしれません。
――最後に役所さん扮する御目付役と対決するシーンがありますが、あらためて考えると『笑の大学』(2004)に主演していたふたりですね。
稲垣そうなんです。僕は初めから意識していましたよ。『十三人の刺客』の現場で役所さんと最初にお話しした時、「『SmaSTATION!!』で僕が監督した『ガマの油』のこと、変なふうに言ってたでしょう?」ってチクッと言われたんです。『SmaSTATION!!』ではその月の公開作に順位を付けたりしていたので、ちょっと皮肉めいたことを言ってしまったのかな。
もちろん役所さんは冗談なんですけど、少し気まずいなと思いながらご一緒していました。でも面白かったな。『笑の大学』ではまったく違う役でご一緒させていただきましたけど、いま思うと当時の役所さんの年齢を僕はもう越えているんです。当時の役所さんが40代後半で、僕は31歳。なにか感慨深いですよね。
『SMAP×SMAP』でコントやお笑いをやって集大成になった“名作映画”
――稲垣さんは2017年まで出演したバラエティ番組『SmaSTATION!!』で、映画を批評する「月イチゴロー」というコーナーを担当していましたが、実はそこで『笑の大学』についてもみずから話していたんです。「ここまで褒められたのは芸能界に入って初めて」というくらい褒められた、と。
稲垣『笑の大学』のことですか?そんなことを言ったなんてまったく記憶にないです。最近は『十三人の刺客』のことばかり言われるから、いつの間にか記憶が上塗りされたのかも(笑)。
――でも『笑の大学』では、それほどまで評価されたわけですよね。
稲垣やっぱり三谷幸喜さんの脚本が素晴らしかったし、星護監督とは『世にも奇妙な物語』シリーズや『ソムリエ』、金田一耕助シリーズといったテレビドラマでもご一緒しましたけど、星ワールドと言われるその世界観と作品がマッチしていましたよね。
僕に関しては、いろいろなものに翻弄されて振り回されていく役が、コメディ作品に限らず多かったんです。いまでこそ舞台『No.9−不滅の旋律−』のベートーヴェン役とか、周囲を巻き込んでいく役もけっこうありますよ。でも当時は巻き込まれる役のひとつの集大成みたいな感覚がありました。
20代前半のころから、主に『SMAP×SMAP』でコントやお笑いみたいなことをやってきて、笑いの間とかセンスとか、そういったものを学んできた集大成でもありましたね。集大成というと大げさですけど、でも20代で学んできたものを、30代に入ってすぐに発揮できた実感があったんです。『SMAP×SMAP』のようなバラエティ番組をやっていなければ、ああいうコメディ映画はできなかったと思う。その蓄積が大きかったはずです。
「『世界に一つだけの花』を出したころグループの仕事が忙しくなって…」
――ところが『笑の大学』から『十三人の刺客』が公開された2010年まで、映画の仕事には約6年間のブランクが生まれます。
稲垣もっとやりたかったんですけどね。『SmaSTATION!!』で他の人の映画をとやかく言うだけの立場になってしまっていたので(笑)。東京国際映画祭でも、メンバーがレッドカーペットを歩くところを僕がインタビューしに行ったりしたんです。だから『半世界』(2019)で初めて東京国際映画祭のレッドカーペットを歩けた時は嬉しかったな。
ちょうどその期間は「世界に一つだけの花」を出したあとのころで、グループの仕事が忙しかったんです。僕が31歳から37歳になるあいだのころですよね。ただ本音を言うと、もうちょっと映画に出たかった。
ドラマはやらせてもらっていたし、個人の活動も充実していたけど、映画の仕事をやりたいなとすごく思っていました。もちろん声をかけていただかなければ始まらないことですけどね。自分の体はひとつだし。でも30代のあの時期でないとできないような役を、もう少しやっておきたかったなという思いはあります。
年間100本以上映画を見続けた稲垣吾郎が学んだこと
――ただそのブランクのあいだ、稲垣さんは『SmaSTATION!!』で映画について発言しつづけていました。「好きか嫌いかというと好きじゃない」とか、「期待外れだった」とか、かなり辛辣にコメントしていましたよね。
稲垣面白おかしく編集されていたような気がします。けっこう好き勝手に言うみたいな。僕の前におすぎさんが映画のコーナーを担当されていて、そこからのバトンタッチだったという関係もあったのかもしれません。
でもそこで映画の観方を学んだのは、いま考えると大きかった。『anan』での映画連載を含め、毎月5本以上、年間で100本以上の映画を観ることが、あのころは仕事になっていました。それは俳優としてもいい経験だったのかなと思います。
映画評もインタビューも、対談をさせていただくことも、すべて好きなんですよ。それで何千本と映画を観てきたわけで、それは自分の蓄えにも、今後の引き出しにもなっているはずだから、そういう仕事をやらせてもらえたことはよかったなと。いまの自分に生きているはずですからね。ただ観れば観るほど、自分も演じたいという欲は高まっていきました。観るのも好きだけど、やっぱり出るというかたちで映画に関わっていきたいなと思いましたよね。
撮影榎本麻美/文藝春秋メイク金田順子
スタイリング黒澤彰乃
〈「人見知りで人前に立ちたくない。日本のスターに憧れたこともない」それでも稲垣吾郎(49)が“自分は俳優になれる”と感じた瞬間〉へ続く
(門間雄介)
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