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3度のスピード離婚 遠野なぎこが語る「摂食障害」の実態

3度のスピード離婚 遠野なぎこが語る「摂食障害」の実態

「普通の人みたいに3食きちんと食べるとか、そういう生活はできたことがないですね。この食べ物への恐怖心というのは一生治らないんじゃないかなって思います。頭ではわかっているんだけど、やっぱり痩せている自分に固執してしまう部分もあるし」

【写真】ほっそりした頬、小さな顔、色白の遠野なぎこ。最近交際している男性は優しく受け止めてくれるという

と話すのは、女優の遠野なぎこさん(43)。10代のころから摂食障害を患い、今もまだ闘病が続く。

「吐いたら太らない」告げた母も摂食障害

「少し前までは過食嘔吐に悩まされていて、2週間前から今度は拒食になってしまいました。まともな食事がほとんどとれない状態で、だからどんどん痩せていきますよね。お菓子しか食べられない日があったり、食べたとしても一日に高野豆腐1つとか、一般の成人女性の食事量にはとても追いつけない」

摂食障害を発症したのは15歳のとき。子役として幼いころから芸能界で活躍し、大河ドラマ『八代将軍吉宗』や人気ドラマ『未成年』など話題作に出演してきた。

しかし思春期で身体が丸みを帯び始めると、母親から「吐いたら太らない」とすすめられ、過食嘔吐をするようになる。当時は摂食障害という言葉自体まだ浸透していなかったころのことだ。

「まだ子どもだったし、母の教えですから、そんなに悪いことだとは思わなかった。摂食障害という言葉も知りませんでした。ただこれできれいになれる、これで太らないで済むんだという気持ちだった。でも実は、母も摂食障害だったんです。それを知るのはずっと後になってからでしたが」

母の言葉から、過食嘔吐をするように。そして間もなく拒食症になっていった。同時に自傷癖もあらわれ、仕事もままならなくなっていく。撮影当日にオーバードーズ(薬の過剰摂取)をした日もあった。精神科に連れて行かれ、そこで「3年間の休養が必要」とドクターストップを命じられた。

「10代のころはガリガリに痩せ細っていましたね。仕事を休んでいる時期だったので、その姿を人に見られることはなかったけれど。それでも私は仕事がしたかった。“ようやく仕事ができる、舞台に立てる!”という夢を見て、泣きながら目が覚めて、現実に愕然とする。そんな毎日でした」

3年間の休養が明けるころ、オーディションの話が舞い込んだ。再起をかけて挑戦し、見事合格。NHK連続テレビ小説『すずらん』の主演に抜擢され、芸能活動を再開する。

作中のヒロイン・常盤萌をみずみずしく演じたが、「あのころも症状は落ち着いてはいませんでした。ちょっと過食寄りになっていて、だいぶふっくらしてました」と振り返る。

以降、バラエティーにも進出し、歯に衣着せぬ発言でタレントとしても人気を博す。その順調な芸能活動の陰で、過食嘔吐と拒食状態をひそかに繰り返してきた。

「自分の意志ではどうにもできないのがこの病気の難しさ。朝起きて、パチンとスイッチが勝手に切り替わってしまうんです。過食になると、コンビニの食べ物をお腹がパンパンになるまで食べてはもどしたり。多いときで一日5回吐いたこともありました。もうまともな状態ではないですよね」

結婚の理由は一緒にいて、摂食障害が良くなったから

症状が悪化する原因は、ストレスや不安、孤独感。長くこの病気と闘い、彼女なりの傾向もわかってきたという。

「異性関係が充実していると不思議とおさまったりすることがあって。依存と言ったら言いすぎですけど、何か夢中になれる対象がないとダメ。寂しいという気持ちを埋めようとするのかもしれません」

これまで3度結婚と離婚を繰り返してきた。やはりそれも安心感が欲しかったから。

「結婚したのは全部、摂食障害が一時的に良くなったのが理由でした。おいしいねって一緒にご飯が食べられて、感動して結婚したんです。それをメディアで言ってもわかってもらえないだろうから、あえて言わなかっただけで……」

好きな人と食事をしながら笑い合う。カップルなら当たり前にあるそんな瞬間も、できるとは思っていなかった彼女にとって「ものすごくびっくりする出来事だった」という。けれどその幸せも長くは続かなかった。

1度目の結婚生活は72日間、2度目の結婚生活は55日間で、今年2月に3度目の結婚をしたが、14日後に離婚し、スピード離婚と騒がれた。

「最初は幸せでも、少しでも相手のあらが見えたり、結婚生活の中で何か不安に感じることがあったりすると、すごいストレスになってしまって。

もうここから逃げられないんだと思って、症状が以前より悪化してしまったりするんです。結婚前はこれで病気が良くなるものだと思い込んでいて、そこまで想定していませんでした。甘かったですね」

現在はマッチングアプリで出会った年下の男性と交際中。自身のインスタには手料理で彼をもてなす自宅デートの様子が頻繁にアップされている。

「彼には最初に摂食障害という病気だからときちんと説明しました。身体へのコンプレックスがいろいろあるから絶対にからかったりしないでね、食べなさいって言われるのも嫌だから、と伝えています。

彼に理解があるのか、のんびり屋さんなのかわからないけど、何も言わないでいてくれます。時々ふざけて“あーん”なんてしてくれるので、“え、これって介護?”なんて笑ったりして(笑)」

お尻の骨が浮き出てお腹はぽっこり

気持ちはひとまず安定しても、摂食障害がもたらす身体へのダメージは大きい。

「体力はかなり落ちています。寝るのも体力って必要なので、不眠症にもなって、30分に1回は目が覚めてしまう日が続いていて。

筋肉はほとんどないので、お尻の骨が浮き出ていて、お腹は逆にぽっこり膨らんでいる感じ。栄養がとれていないので、立ちくらみもするし、抜け毛もひどい。お風呂場はもうホラー映画みたいになっちゃってます」

心身のコントロールは難しく、常に不調がつきまとう。それでも芝居となると一転、女優の顔に切り替わる。

「アドレナリンが出るんですよね。もう周りが何も見えていないというか。この前久しぶりにお芝居をしたけど、すごく楽しかった。身体がちゃんとお芝居を覚えてた。やっぱり天職なんだと思いました」

現在は月に1回病院に通い、投薬治療を続けている。15歳から30年近く摂食障害と闘ってきた。これから先、どう病気と向き合っていくのだろう。

「この病気と共存していくしかないんでしょうね。普通の人みたいに食べるというのはちょっと厳しいんじゃないかと思います。例えば海外に行ったりとか、環境を大きく変えたりすると良くなることもあるんでしょうけど。でもいつ爆発するかわからない爆弾を抱えている状態なので」

自身の摂食障害を公表し、闘う姿を発信する。そこには同じ病気を患う人たちに対するひとつの思いがあるという。

「孤独じゃないよっていうことを伝えたい。摂食障害でもちゃんと仕事もできるし、笑顔でいられる。

私も強く生きていくから、その姿を見ていてほしいなって思います。陰で吐いたり拒食になったりしてる人間がここにもいるんだよと、でも笑顔で頑張っているんだと思ってほしい。

周りに理解されないし、死にたくなるくらい苦しい。でもひとりじゃないからねと、わかってる人間がいるんだよって、伝えられたらと思っています」

医師に聞いた摂食障害「友達グループ全体が軽い拒食状態に」

「今、世界的な問題になっているのが、患者数の増加と低年齢化。もともと思春期に多い病気ですが、最近は小学3年生でも発症するケースがある。アイドルになりたい、だから痩せなきゃいけないと一生懸命ダイエットをして、そこから摂食障害になっている」

そう話すのは、摂食障害に詳しい医師の作田亮一先生。

その症状は大きく分けて2つあり、食事をとらずにどんどん痩せていく神経性やせ症(拒食症)がまず一つ、もう一つは過食と嘔吐を繰り返す神経性過食症に分類される。

「ただし発症のきっかけはどちらも同じで、体形に関する誤った認知がある。体形や体重にこだわって、いくら痩せていても十分ではないと感じる。やがて心身のコントロールができなくなっていく」(作田先生、以下同)

人目にさらされる芸能人なら、体形へのこだわりはなおさらのこと。現に摂食障害を患う女優やアイドルは多い。

女優のともさかりえさんはストレスから10代で発症し、拒食と過食を繰り返した。釈由美子さんは無理なダイエットがたたり、20代で摂食障害を発症。コンビニで買ったパンやスイーツを泣きながら食べては嘔吐し、一時はミントしか口にしていなかったという。

摂食障害などを理由に芸能活動休止を発表したのが元AKB48の光宗薫さん。やはり元AKB48の岡田奈々さんは高校1年から過食と嘔吐を繰り返していたと告白。多いときは一日5度嘔吐したというから壮絶だ。光宗さんと岡田さんはアイドルグループ時代の発症だが、そこには一つのパターンがあるという。

「女性は痩せ方を競い合う傾向がある。なのでクラスにそういう子が1人いると、その友達グループ全体が軽い拒食状態になることがあります」

長期に慢性化して神経性過食症に移行も

摂食障害を患う芸能人の中には若くして発症し、長く病気と闘うケースも少なくない。モデルのマリエは摂食障害との10年を超える闘いを自身のインスタグラムで明かし、「炭水化物が怖くて食べられなかった。やっとおにぎりが食べられるようになった。こんな毎日が来るなんて」と報告している。

「若いころにきちんとした治療を受けていないと慢性化することがある。低年齢で神経性やせ症を発症してそのまま治らず、神経性過食症に移行する人も増えています」

摂食障害の身体への害は大きく、栄養失調はもちろん、生理不順や無月経、低身長、脳の萎縮、骨粗鬆症などさまざまな問題を引き起こす。

「アスリートの人たちの疲労骨折の多くがそう。特に目立つのがフィギュアスケートの選手や新体操選手、マラソン選手など。彼らは痩せすぎていますから、簡単に折れる。あれはやはり低栄養だから」

元フィギュアスケート選手の鈴木明子も摂食障害に苦しんだ一人。18歳のとき拒食症を患い、48キロあった体重が3か月で32キロに激減した。競技生活から一時離れるも、休養で健康を取り戻している。

身体への害はもちろん、摂食障害でより深刻なのは精神面へのダメージだ。

「神経性やせ症の場合は痩せ願望が成功しているからある意味達成感がある。けれど過食症になると体重が増えてしまうので、達成している感覚がない。結果、神経性過食症の自殺率が高くなっています」

一歩間違えば命にかかわるのが摂食障害という病。家族や大切な人が摂食障害を患ってしまったら、周囲の人間はどう対処すればいいのだろうか。

「いきなり精神科や専門の病院に行くのはハードルが高い。まずはかかりつけの医者に相談すること。そこから第2段階として専門の病院に進むこともできる。

治療は身体的な治療と心理的な治療の2つで、痩せ願望がなくなるというのが最終的な完治になる。そのために大切なのは早期治療。気づいたら早めに医療機関を訪れましょう」

作田亮一●獨協医科大学特任教授埼玉医療センター子どものこころ診療センター長。著書に『10代のためのもしかして摂食障害?と思ったときに読む本』などがある

(取材・文/小野寺悦子)

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