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ジャニー喜多川氏性加害、本当は立件できた? 愕然とした当事者、弁護士も「捜査すべきだった」...警察が動かなかった理由とは

ジャニー喜多川氏性加害、本当は立件できた? 愕然とした当事者、弁護士も「捜査すべきだった」...警察が動かなかった理由とは

故・ジャニー喜多川氏による性加害は、SMILE-UP.(旧ジャニーズ事務所)の外部専門家チームの調査によると、2015年ごろまで半世紀にわたって続いたとされる。ヒアリングで得た話の数だけでも、小学校低学年から高校1年まで計24件に上り、被害者は複数の証言では「少なく見積もっても数百人」だった。

「極めて悪質な事件」と前検事総長が座長として指揮する調査で指摘され、SMILE-UP.の東山紀之社長(57)が「鬼畜の所業」「人類史上最も愚かな事件」と表現したほどおぞましいものだった。そんな事件も、警察や検察が立件しなかったが、本当は立件できたのか、関係者への取材から検証した。(前編)(J-CASTニュース編集部野口博之)

「1970年代前半には芸能界関係者には広く知られていた」

「正直言って、我慢しなくちゃいけないっていう雰囲気作られちゃって、この人の言うこと聞けないとデビューできないんだ...。実際にデビューさせてやるということを聞いていましたから、ジャニーの言うことを聞かないと、デビューできないと思っていました」

1970年代に人気となったアイドルグループ「フォーリーブス」のリーダーだった故・北公次さんは、グループ解散後の88年、ジャニー氏の性加害を告発した著書『光GENJIへ』を出版した。翌年のビデオ版でも、40歳になる自らをカメラの前に晒し、涙声になって被害の背景を赤裸々に告白した。

北さんは、ジャニーズJr.(現・ジュニア)になった15歳のときから被害に遭い、拒否したらスターになれないと長い間我慢した。他のグループも同じことをされ、つらい思いをしているのではないかと心配し、「20年間、まだ同じことを繰り返しているってこと。僕は、それを言いたい」と訴えた。

「12、3...10代です。10代の頭。そういう男の子もやられてるの知ってんだ、俺は。みんな知ってんだよ。芸能界だって、みんな知ってんだよ」
「だから、だますのはよくねぇっつんだよ!その子供だけじゃなくて、親までもだましてさ。俺が告白しなかったら、どうなる?ジャニーズ事務所辞めた人間、みんなつぶされちゃうぜ」

左手のこぶしを振り上げ、北さんは、こう熱弁を続ける。ジャニー氏に対しては、戦っていく姿勢を示し、「止めろよ、もう。もう繰り返しは止めろよ!」と激怒していた。

北さんのこの告発によると、15歳で被害を受けてから、北さんを含めたJr.へのジャニー氏の性加害は少なくとも20年は続いた。

しかし、SMILE-UP.の外部チーム調査によると、この問題は、北さんの時代ばかりでなく、1950年代からほぼ万遍なく存在していた。そして、北さんが芸能界では周知のことだとしたように、ヒアリングの結果から「遅くとも1970年代前半には芸能界関係者には広く知られていた」と指摘している。

北さんが警察に相談に行ったかについては、ビデオ版の告発には出ていなかった。ただ、北さんからこの証言を引き出した関係者は、Jr.のメンバーが警察に相談に行ってもほとんど相手にされなかったと、テレビの報道番組などで当時を振り返っている。

北さんの著書が「暴露本」の先駆けとなり、その後も、ジャニー氏の性加害について、他のタレントによる出版が続いたが、テレビなどで取り上げられなかったこともあって、注目されなかった。

「被害者が申告するなどの協力がないと警察も動けない」

その後、週刊文春が99年10月から14週にわたって、ジャニー氏性加害を中心にした旧ジャニーズ事務所の特集を組んだ。

「ジャニーズの少年たちが『悪魔の館』合宿所で強いられる行為」
「ジャニー喜多川は関西の少年たちを『ホテル』に呼び出す」

記事には、こんなタイトルが並ぶ。Jr.の少年らが合宿所と呼ばれる東京都内のジャニー氏自宅などで被害に遭い、程度によって1〜5万円をもらっていたといった内容だ。

これに対し、事務所は同年11月、同誌を発行する文藝春秋社に名誉毀損による損害賠償を求めて東京地裁に提訴し、02年3月の判決では、性加害については、その存在を認めず、事務所が事実上、勝訴した。続いて行われた東京高裁の控訴審では、03年7月の判決で性加害が認定され、文春側が逆転で実質勝訴した。事務所による最高裁への上告は棄却され、04年2月に高裁判決が確定している。

この間、文春の取材に応じた少年らは、ジャニー氏の性加害について、警察に相談していたのだろうか。それに対し、警察はどんな対応をしていたのか。

この点について、裁判で文春の代理人を務めた喜田村洋一弁護士は、J-CASTニュースの取材にこう答えた。

「少年たちは、警察には行っていないのではないでしょうか。1審の判決で性加害が認められなかった理由の1つに、警察が動いていないことが挙げられています。高裁の判決では、少年たちが訴えた事案の内容を考えると、警察に相談しなくても、性加害がなかったと判定できないとしています。相談しなかった背景には、女性の性被害でも警察になかなか行けなかったことがあるように、少年たちの被害でも同じことが言えると思います」

たとえ少年らが警察に相談したとしても、立件は難しかったとみている。

「男性から男性への性加害が広く認知されていなかったこともありますし、被害者が申告するなどの協力がないと警察も動けないと思います。また、著名な方については、警察も慎重に考えるでしょう」

とはいえ、「これだけの被害ですので、捜査すべきだったと思っています」と警察などに苦言を呈した。

「積極的に立件する意識は低かったようですが、都の青少年健全育成条例の買春罪などで捜査すればよかったはずです。刑法の暴行罪のほか傷害罪を適用することもできたと思います。積極的に立件しようと思えば可能だったと考えています」

「証明や証拠がないと、刑事は動かないんだよね」

ジャニー氏の性加害について、SMILE-UP.の外部チーム調査では、次のように表現している。

「内容は、マッサージと称して体を撫でまわす、性器に触る、ディープキスをする等のわいせつ行為や、口腔性交により射精させる、肛門性交をしたりさせたりするといったものである」

被害者へのヒアリングでは、行為の後にジャニー氏から1〜5万円を渡されたとの証言がいくつもある。調査では、「強制わいせつ罪等に該当し得る犯罪行為」と明確に断じており、性加害が長期間繰り返されたことに対し、前検事総長としての忸怩たる思いが伝わってくる。

元Jr.らの救済活動を進めているジャニーズ性加害問題当事者の会代表の平本淳也さん(57)は、13歳だった1980年にJr.になり、16歳になるまで自らジャニー氏の性加害を受け続けたと取材に告白した。それでも、最後まで行為を続けることを拒むなどしたため、ジャニー氏から優遇されないまま、18歳になった85年に旧ジャニーズ事務所を退所した。

北さんの告白本『光GENJIへ』が出た後、平本さん自らも性加害を訴えるようになり、96年にその状況について暴いた『ジャニーズのすべて少年愛の館』などを出版した。

平本さんは、30代に入った97年か98年に、警察にジャニー氏の性加害について相談したことがある。

そのために行ったわけではないと取材に説明し、こう明かした。

「作家もしていてメディア出演も多かったので、当時はストーカーの被害に遭っていました。神奈川県警の警察署に行って、被害の理由について聞かれたとき、ジャニーズ関連の本を出すタレント活動もしていたと説明しました。そのとき、ジャニーさんのことで、『ホモって知っていますか?』と尋ねたんです。『聞いたことはあるね』と答えたので、『事件になりませんか?』と切り出しました」

すると、警察署では、次のように素っ気なく返されたという。

「う〜ん、証明や証拠がないと、刑事は動かないんだよね」

ジャニー氏の性加害に対して、メモさえ取らず、まったく興味を示さなかったという。平本さんは、「こんなもんか」と愕然として、それ以上のやり取りはせず、その後は警察に相談しなかった。

何人かの弁護士にも、「事件とかになりませんか?」と相談したが、警察同様に「証明とか証拠がないとね」と繰り返されたという。

「親にも言えないものは、警察にも言えないですよ」

Jr.時代なら、警察や弁護士から何度も聞かされた「証明や証拠」がまだ可能だった。しかし、平本さんはその当時、警察に相談することはできなかったという。

それでは、その時代に、なぜ相談しなかったのだろうか。この点について、平本さんは、こう説明した。

「12、13歳で警察ですか?恥ずかしくて、親にも言えないものは、警察にも言えないですよ。親と一緒に警察に行けるわけがありません。性加害を受けたときに小学生や中学生では、言えないでしょ。子供では、どうすることもできませんよ。頭にも浮かばなかったと思います。学校や友達で広まったら、生きていけません。死ぬ覚悟になります。いじめや虐待と同じだと思います。人としての尊厳を奪われ、言えないから、傷が深まるんです」

ジャニー氏の性加害が半世紀も続いた背景として、平本さんは、旧ジャニーズ事務所の影響力が発覚を遅らせたこともあるのではないかとみる。

「警察にも、事務所の強さが及んでいたと思っています。表に出ているのはごく一部で、色々な事件がうやむやにされたり、もみ消されたりしました。加害者に罰が与えられなかったから、これだけ被害が拡大したんですよ」

そのうえで、警察や検察に対しては、次のように呼びかけた。

「男の子が男の被害に遭っていることについて、人の話を偏見なく聞くことが大事だと思います。僕は、35年間も性加害を訴え続けてきて、ウソつき扱いをされてきました。今となっては、捜査できないでしょうし、やらないでしょうけど、僕は、時効になっていない欧米の一部での性加害などについて、今後の再発防止の意図を持って捜査すべきだと思っています。記録として、デモンストレーションとして、捜査をやったらどうですか?守るべき市民の声を聞かずして、何が警察なのでしょう。事務所周辺の方々も、性加害に加担して隠ぺいしており、今でも捜査できると思っています。なぜしないのかということです」

(後編へ続く)

ジャニー喜多川氏性加害、本当は立件できた? 愕然とした当事者、弁護士も「捜査すべきだった」...警察が動かなかった理由とは 外部サイト ジャニーズ性加害「嫌だと断ったらどうなった?」被害告発の元Jr.が証言した「抵抗した人の話」 ジャニーズ性被害者への「自業自得」批判、現役警察官が猛反論「あんなモンスターみたいな大人に...」「絶対おかしい」 ジャニーズ性加害「当事者」が指摘した「最も責任大きい」人物「すべてを見てきた生き証人」

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