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「死に至る病だなと…」河村隆一 5年前に判明した肺腺がんを振り返る

「死に至る病だなと…」河村隆一 5年前に判明した肺腺がんを振り返る

“きっと大丈夫だよ!”と僕を支えてくれた

【写真】「人気衰えず」昨年秋より行われたLUNASEAのアリーナツアーの様子

「検査結果が送られてきたけれど、しばらく放っていたんです。あるとき息子に“これ、見なくていいの?”と言われて、僕も“あ、そうだ”と思って。息子が言ってくれなかったら、発見がずっと先になっていたかもしれない。虫の知らせじゃないけれど、気づかせてくれてよかった。本当にありがたいなと思っています」

と言うのは、ミュージシャンでLUNASEAボーカルの河村隆一さん。人間ドックで肺にすりガラス状の陰影が見つかり、再検査に進む。呼吸器内科から始まり、呼吸器外科のセカンドオピニオンを経て、「ステージ1の肺がん」と診断された。

自覚症状もなければ、非喫煙者だった

「実際にがんと言われたときはびっくりしました。再検査のとき、“これはおそらくがんでしょう”と先生に言われてはいたんですけど、確定するとなるとガツンと……」

自覚症状もなければ、非喫煙者で、もともと健康に不安はなかった。人間ドックも年に1回は受けていた。

「それまで何の異常もなかったので、自分は健康だと思い込んでいました。ちょっと高をくくっていたというか。ただ自分でもすっかり忘れていたのだけれど、祖父母がやはり肺がんになったことがあったんですよね」

と話す。

肺がんとひと言でいってもいくつかの種類に分かれ、河村さんが罹患したのは肺腺がん。肺がん=喫煙者のイメージが強いが、肺腺がんは非喫煙者や女性にも多くみられるがんで、肺がん全体の約半数を占める。早期の場合自覚症状は現れにくいため、検診などで偶発的に発見されるケースが多い。

「僕は幸い早期発見だったけれど、やっぱりこれは死に至る病だなという意識はありました。先生には“そのがんがもし肺の外にこぼれたら、腎臓や胃など他の臓器に転移し、ステージ1からいきなりステージ4になる可能性がある”と言われて。仕事を調整しつつ、手術を受けようと決めました」

がんのことは手術まで公表せず

2019年1月に入院。がんはまだ9ミリ程度と小さく、肺の左胸壁に近い場所にできていた。肋骨の間に穴を開け、そこからがんを切除する、腹腔鏡手術を受けている。だがこれも早期のがんだから叶うこと。ステージが進むと手術は難しく、放射線治療や抗がん剤治療に頼ることになる。

がんのことは手術まで公表はしなかった。手術を受け、病室に戻ったときに、ブログで《元気ですよ。全てが終わって、もう大丈夫です。》という形で伝えた。

「ファンのみなさんに対しても、伝えるのであれば明確に、伝えなくて済むのであれば何もなかったかのように過ごすのがいいなと思っていました」

そこで大きな支えになったのが、家族やスタッフの存在だったと語る。

「家族はいつも“きっと大丈夫だよ!”と言って、僕を支えてくれました。もし家族に悩まれたり泣かれたりしたら、僕自身もっとシリアスになったりナーバスになって、悪い未来を想像してしまったかもしれない。スタッフなど周りの励ましてくれる人たちのおかげで、すごく気が楽になりました」

手術は無事成功し、復帰に向けリハビリを始める。あらかじめ医師と相談し、手術の1か月後のステージ復帰を目標に定めていた。

「復帰に向けて頑張れるよう、細かくスケジュールを決めていきました。手術翌日、まず点滴したまま病院内をぐるぐる歩いて回るところから始めています。そうしないと肺が自力で広がってこないそうです。先生に“無理がなければ回数を増やしてもいいですよ”と言われたので、朝昼晩回るようにして。そうしたら順調に回復し、手術後1週間弱で退院」

抜糸をした後、すぐジムにも行ってトレーニングをしていたというから驚きだ。

「痛みはまだ少しあったけれど、先生いわく、“動いてもこの傷口はもう開きません”というお話だったので。ただ飛行機や山登り、スキューバダイビングなど、気圧の変わることをするのはしばらく避けてください、と釘を刺されていて、それは守りました」

今年で結成35周年過去最大の全国ツアー

ミュージシャンとして気がかりだったのが、声であり肺活量の問題だ。だがそれらの懸念も、医師の献身的なサポートで払拭されたと話す。

「手術前に麻酔科の先生が病室にいらして、“なるべく細くて柔らかい管を使うようにします”と説明がありました。たまに麻酔の管で声帯に傷がついてポリープができることがあるらしいのですが、ボーカリストということでいろいろ配慮してくださったようです。肺活量も心配でしたが、“またしっかり肺を使っていけば補っていけます”との言葉をもらい、トレーニングの励みになりました」

当初定めた目標どおり、手術の約1か月後に復帰。復帰第1弾のステージは地元・神奈川で、ファンに元気な姿と変わらぬ歌声を届けた。

自身の体験を踏まえ、製薬会社のアストラゼネカが展開する肺がん啓発プロジェクト「知ってもらいたい、肺がんのこと」に参画。肺がんの早期発見と定期的な検診の重要性を広く訴えている。昨年11月にはオリジナル応援ソング『何気ないその笑顔が…』を発表したが、楽曲には病と向き合った経験も投影する。

「僕自身そうでしたけど、がんというのは自分一人の問題ではないんですよね。家族の問題であり、仲間の問題でもあって、周りの支えがあるから強くいられる。闘病して日常に戻ったとき、以前のようにできないことも出てくるかもしれない。でも自分にはできないと悲観的になって人生を狭めてしまうのではなく、何かしら今の自分にできる役割を果たせたら。それは周りを笑顔にすることかもしれないし、喜ばせることかもしれない。何より早期発見・治療をすれば、また元の日常に戻れる可能性は高く、そこでまた支える側になる自分を取り戻せる。そんなことを伝えられたらという気持ちでいます」

手術から丸5年がたつ今、予後は順調で、抗がん剤や放射線治療、投薬の必要もなし。現在は年に一度の定期検査を行い、同時にシンガーとして精力的な活動が続く。今年は2月から教会ツアー『RyuichiKawamuraPresentsNoMic,OneSpeakerConcertatChurchTour2024』がスタートし、また5月にはLUNASEA結成35周年を迎える。

この大きな節目を記念し、過去最大規模の全国ツアー開催を宣言しているが─。

「35周年といっても、本当にあっという間でしたね。振り返るといろいろなことがあったけど、感覚的にはすごく短かったというか。昨年末にアリーナツアーを行いましたが、今回はそのとき行けなかった場所を中心に回るつもり。アリーナにはみなさん各地から集まってくださったけど、僕らのほうからみなさんのところへ出向けたらと」

がんを克服し、日常を取り戻した今、ミュージシャンとして思うことがあるという。

「僕自身が本当に命を救ってもらったという意識が強くあります。この経験は一つのギフトで、今まで振り向くことなく走りすぎていたぶん、取りこぼした宝物をもう一度掘り起こせと神様が言っているような気がして。今自分自身新しい楽器になったような感覚があって、それをうまく鳴らせるよう自分と向き合っているところです」

バンドも35周年を迎えた今、やはりこのメンバーと共にステージで音楽を奏でることに幸せを感じると話す。「何よりこうして音楽をやれていること自体に大きな充実感があって。みなさんにまた新しい音楽を元気にお届けしたいと思っています」

<取材・文/小野寺悦子>

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