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「虐待された過去があっても、親と縁を切ると悪者にされる」“20代で母親と絶縁”した遠野なぎこ(43)が世間の風潮に思うこと

「ドラマ撮影の前日、睡眠薬を大量に飲んだ」母親のW不倫、虐待、16歳での自殺未遂…10代の遠野なぎこ(43)を襲った“絶望”から続く

幼い頃から母親の虐待や育児放棄に遭い、43歳になった現在もそのトラウマと闘っている俳優の遠野なぎこさん。実の母から「醜い」と否定され続けて育った彼女は、今も自分の姿をまともに鏡で見られないほどの“心の傷”を負っているという。

【画像】今から約24年前…“朝ドラのヒロイン”だった頃の遠野なぎこさん

そんな遠野さんはこれまで、自身の壮絶な過去やいびつな親子関係と、どのように向き合ってきたのだろうか。そして、家庭環境や家族関係に苦しむ人々に、彼女が当事者として“伝えたいこと”とは――。(全3回の3回目/1回目から読む)

「虐待された過去があっても、親と縁を切ると悪者にされる」“20代で母親と絶縁”した遠野なぎこ(43)が世間の風潮に思うこと
俳優の遠野なぎこさん(43)©三宅史郎/文藝春秋

◆◆◆

母親には「娘」として見られてなかった

――遠野さんのお母様自身は、どういった境遇でお育ちになったのでしょう。

遠野なぎこさん(以下、遠野)母は青森で生まれて、高校を中退したらしいんですけど、うちは祖父が学校の校長先生、祖母が着物の先生、叔母が公務員で、みんなそこそこ学歴があったんです。それがコンプレックスだった様子はありました。人に対して「何かで勝ちたい」という気持ちが強かったんだと思います。

だからこそ、3人目の夫にはお金持ちの地主を選んで、旅行に連れて行ってもらったりだとか、派手な暮らしをして、そういう面で勝った気になっていたんじゃないでしょうか。

――親子関係が悪かったというような話はありましたか?

遠野多分親から責められたりしたことはあったと思います。彼女自身も摂食障害になっているわけですし、何か要因はあったんだろうと。母はコンプレックスがあったからこそ、自分のことを見てもらいたかったんだと思いますよ、きっと。

――だからこそ母親になりきれず、俳優として活躍する遠野さんを、「娘」としてではなく「女」として対抗心を燃やすような部分があったのかもしれませんね。

遠野やっぱり娘として見られてはいなかったと思いますね。私はあまり家の事情だったり親との関係性だったりを誰かに話してこなかったので、そういう人が周りにいるかはわかりませんけど。世の中にはそうした親のもとに生まれて、苦しんでいる人は多いんだろうと思います。

――周りの人にお話をされるのはやはり抵抗がありますか?

遠野不幸自慢をしているみたいで嫌で。あとは大切な友達だからこそ、相手の重荷になりたくないんです。だからあまり言えない。あくまで私は、ですけど。

「子供を愛さない親がいる」ことへの理解が進んでいない

――私自身も経験がありますが、苦しい時ほど人って平気なふりをしてしまいがちですよね。やっぱり大事な人たちを失いたくないし、負担になりたくない。

遠野親と絶縁することって、世間的な理解がまだ全然ないじゃないですか。こういう話をすると「子供を愛さない親はいないはず」と絶対言われるんですけど、いるんですよこれが。

そういう家族のもとに生まれた身からすれば、もうわかってもらおうとも思わないです、そんなことを言われると。

――「家族とはこうあるべき」という価値観を押し付けられることで、「何かあなたたちに問題があるからそうなるんだ」と世の中から排斥されてしまうような心境になるのでしょうか。

遠野そうそう。だから追い詰められてしまって、ますます誰にも言えなくなってしまうんですよね。世の中にどれほどそういう人がいるのかを考えると、胸が苦しい。

絶縁することについても「親を捨てるのか」とか「育ててもらったことへの感謝はないのか」とか言われるんです。どれだけ虐待されていた過去があったって、親と絶縁するとなると、こちらが悪者にされてしまう風潮が強いように感じます。

理解のない言葉を真に受けて傷付く必要はない

――そうした風潮のなかで、絶縁するわけにもいかずに親との関係性に苦しんでいる人は、かなり多いと思うんです。そういう人に向けて、思うことや伝えたいことなどありますか?

遠野理解を示してくれない人の言葉には、耳を傾けないほうがいいと思います。何も聞かなくていい。だって、外野からそういう風に言ってくる人たちは、何も考えずに言っているだけなんですから。

そういう言葉に振り回されたり、自分を責めたりする必要は一切ないと思います。真に受けて傷つく必要なんてない。

――理解のない言葉を真に受けて、まともに正面からダメージを食らってしまうと、身がもたないということでしょうか。

遠野そう。だって、そういう言葉を投げかけてくる人たちは、こっちが傷ついたことにさえ気付いてないんだから。そんなもののために涙なんか流さなくていい。忘れてしまっていい。

――過去には、「スピード離婚」などと世間からおもしろおかしく見られることもあったかと思います。

遠野実は別れたことにもちゃんと理由はあって。でも本当のことなんて言えませんもの。バラエティでいじられたって、そんな重い話はできませんし、相手は一般人だったので、そんな話は絶対にしちゃいけないから。

多くの人が救われるように、家族の問題を発信する理由

――ご自身と同じような悩みを抱える方々のために発信をしたり、相談に応じたりする活動もしていますよね。

遠野そうですね。今日取材を受けさせていただくことになったのも、同じような境遇の方が少しでも楽になれたら、というところで。

――遠野さんは人の痛みがわかりすぎてしまう分、しんどくなってしまいませんか。

遠野いやいや、自分の痛みより人の痛みのほうが気になっちゃうだけなんです。自分の痛みはわりと平気です、強いから耐えられるし。でも、「誰かを傷付けてしまったかも」と思うと、それが一番怖い。つらいし、胸が抉られるような気持ちになるし、引きずるし。

――だからこそ、著書を書かれた理由もそうだと思いますけれど、ひとりでも多くの人が救われるように、家族の問題を広めたいということですよね。

遠野そうですね。多分、ほとんどの方ってそういう親子関係があることも、親から受ける呪いみたいなことも、知らなかったりピンとこなかったりするでしょうし。

去年の5月に母が自死して、そのことをどこにも話していなかったんですけど、私、嘘をつくのは嫌だったんですよ。今後、こうした話をすることがあったとして、母のことを話さないわけにはいかないから。だから、今回の取材を受けようと思ったんです。

――あとで何かでバレたりすっぱ抜かれたりしたときに「嘘を付いていた」「隠し事をしていた」なんて言われたり、あることないこと好き放題書かれたりするのも嫌ですものね。

遠野私はどうしても嘘をつけない人間なんです。だから、自分の言葉できちんと話をしておきたかった。そんなときにたまたま取材のお話をいただいたので、タイミング的にも、ここで区切りをつけておきたかったんです。

目に見えない傷も必ず癒えるから、自死だけは選ばないでほしい

――お母様が亡くなってから弟さんや妹さんとのご関係はどうですか?

遠野一度弟と連絡を取って私の体調が悪くなってしまって以来、連絡は取っていません。弟や妹たちと連絡を取ると母のことを思い出してしまうから。次に強い揺り戻しがあると、私はもうどうなってしまうかわからないから、そうするしかないんです。

きょうだいのことは本当に愛しているけど、今は距離を置いておきたい。もしも何かがあったら絶対に助けたいと思うけれど、会ってしまうと私が壊れてしまうから、今はちょっと難しいかなというのが正直なところです。

――虐待を受けた過去があって、今も苦しんでいらっしゃる方は多いと思うんです。大人になって突然傷が癒えるようなものではありませんし。そういう方に向けて、遠野さんから何かメッセージをいただけませんか。

遠野誰しも「今のままずっと苦しみが続く」ということはないと思うんです。きっと何か、解放されるきっかけがあるはず。体の傷だって、治癒していくじゃないですか。ずっと傷口がグチュグチュしているということはないと思います。「目に見えない傷だって必ず癒えていく」ことを信じてほしいです。

それこそ、自死だけは選ばないでほしい。特にこの2、3年、自死された方はかなり多かったと思います。でも必ず変化は訪れるから、生きてほしい。私が言えたことではないですし、私もいまだに「死んじゃえばいいや」と思うときだってありますけど。

だからこそ、色々な人の経験談を読んでいただくのもそうだし、色々な人の生き方を見たりすることも大事なことだと思います。

――「ずっとこのまま、この苦しみが続いちゃうんじゃないか」「先が見えなくて苦しい」と感じてしまう人は多いかもしれません。でも、視野を広げてみるというか、知っていれば楽になることもありますものね。

遠野そうですね。別に自分より境遇がひどい人がいるだとか、そういう安心の仕方をしてほしいわけじゃないんです。いろんな生き方を見て、自分の人生経験と照らし合わせて見たりすると、何か自分を助けてくれるヒントになることもありますから。

今は摂食障害の症状がよくなると信じて通院中

――遠野さんご自身の心身の状態はいかがですか?

遠野私はまだ病院に通ってお薬で調整してはいますが、強迫性障害は少し状態が良くなっているんです。以前は、家の鍵をかけたかどうか、コンロの火を消したかどうか不安で、3時間くらいかけて確認をしたり、マネージャーに確認してもらったりしていたんですけど。

摂食障害は、今あまり量を食べられないので体重は少し落ちちゃいましたし、過食嘔吐もたまに出ますけど、それもお薬で調整しているのでコントロールはできている状態です。「サポートします」と先生がおっしゃってくださるから、よくなっていくと信じて病院に通っています。

――一時よりはよくなった、というところでしょうか。

遠野過食嘔吐がなくなったというか、かなり減ったという感じですね。摂食障害の症状自体は、そんなにすぐになくなるようなものではないですから。

――お母様の自死の件で、遠野さんの体調を心配していたので、少し安心しました。

遠野最近は年末年始の過ごし方も少し変わってきたんです。以前は「孤独だ」と思っていたんですけど、今はおせちを1人分作って楽しんだり、年越しもお酒を飲んでいて気が付いたら「ゆく年くる年」が終わっていて、みたいな。それが恒例になっています。

あとは、マッチングアプリで男の人と会う。元日が終わって、1月2日とかから。年末年始はこれに限ります(笑)。

――過去には苦しんだご経験もありますが、今は遠野さんご自身も少しずつ変わられているんですね。

遠野大丈夫ですよ。変わりますから。大丈夫。

撮影=三宅史郎/文藝春秋

(吉川ばんび)

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