【牧元一の孤人焦点】1月4日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第65回に俳優の昆夏美（32）が演じる歌手・李香蘭が登場し、「夜来香（イエライシャン）」を歌った。

李香蘭は終戦後、日本で芸能活動した山口淑子さん。役者として黒澤明監督の映画「醜聞」（1950年）などに出演したほか、ワイドショー「3時のあなた」（69年〜）の司会や参院議員（74年〜）を務めるなど幅広い分野で活躍した。

歌手の笠置シヅ子さんをモデルにした主人公・福来スズ子（趣里）、作曲家の服部良一さんをモデルにした羽鳥善一（草なぎ剛）、歌手の淡谷のり子さんをモデルにした茨田りつ子（菊地凛子）らと違い、実名で登場するところが異例だ。

制作統括の福岡利武氏は「李香蘭が登場するのはワンシーンですが、そのシーンを大事にしたいという思いがありました。『夜来香』はよく知られている歌でもあり、ご本人をリスペクトさせていただきつつ、お名前を使用させていただきました。上海での羽鳥善一のエピソードは実話に基づいたもので、戦後の復興にかける善一の思いを描く上で大事だと考え、ドラマに盛り込むことにしました。このエピソードに登場する作曲家の黎錦光（演じているのは俳優の浩歌）も実在の方です」と話す。

李香蘭を演じる昆夏美は朝ドラ初出演。これまで舞台を中心に活動し、ミュージカル「ハムレット」「レ・ミゼラブル」などに出演。2017年公開のディスニー実写映画「美女と野獣」日本語吹き替え版でヒロイン・ベルの声優を務め、注目された。

福岡氏は「昆さんは以前、歌番組で拝見して歌が素敵だと思っていました。『ブギウギ』のヒロインオーディションを受けていただいていて、とても魅力的な方なので、何かの役で出演してもらいたいと考えていました」と起用理由を説明する。

ドラマの中で李香蘭は、羽鳥善一が上海を去る前、善一の「最後にもう一度、『夜来香』を歌ってもらえませんか」との願いを聞き、ピアノ伴奏で歌い始める。その歌声は伸びやかで艶やかだ。

福岡氏は「昆さんの歌の練習時間は驚くほど短かったと思います。歌の習得が早くて、さすがミュージカルスターは凄いなと思いました。ドラマでは昆さんが事前に録音した歌を流していますが、素敵な歌だったので、あのシーンの撮影時、周りにいた人たちの拍手が鳴り止まないほどでした。草なぎさんも惜しみない拍手を昆さんに送って『上海らしいシーンになって良かった』とおっしゃっていました」と振りかえる。

李香蘭の登場はこのワンシーンだけ。ぜいたくな起用と言える。

福岡氏は「上海のエピソードは、のちにブギのリズムが生まれていく上で大事なので、その核として、ぜいたくな使い方をさせていただきました。短いシーンでしたが、昆さんにはやりがいを感じていただいて、撮影後に『楽しかったです』とおっしゃった時の笑顔が印象的でした」と語る。

短い登場ながらも深く胸に刻まれる人物となった。

◆牧元一（まき・もとかず）スポーツニッポン新聞社編集局文化社会部専門委員。テレビやラジオ、音楽、釣りなどを担当。

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